1位は逃したものの、ベスト100のなかに6つも名セリフが選ばれた映画があります。「カサブランカ」(1942)です。第5位には、カサブランカの代名詞とも言える”Here's looking at you, kid.(君の瞳に乾杯)”が選ばれてます。ハンフリー・ボガート演じるリックが、イングリッド・バーグマン演じるイルザに幾度も語りかけます。かつてパリで愛し合った二人でしたが、イルザは理由を告げずに去ります。そしてカサブランカのリックの店で、二人は再会します。イルザには、夫がおり、政治的事情を抱えています。しかし、再会した二人の愛は消えてはいませんでした。二人の変わらぬ愛を象徴するセリフです。カサブランカは、脚本の見事さ、名セリフの多さで知られます。ただ、私のお気に入りのセリフは、ベスト100番外でした。
「昨夜はどこにいたの?」と愛人に聞かれたリックは「そんな昔のことは覚えていない」と答えます。重ねて女性が「今夜、会える?」と聞くと、リックは「そんな先のことは分からない」と答えます。なんともしゃれたセリフです。ダンディなボガートにピッタリのセリフです。カサブランカは、ラブ・ロマンスではありますが、欧州の戦争が色濃く反映され、スパイ・サスペンスの要素、反ナチ・プロパガンダの要素も、たっぷり盛り込まれています。テンポよく、流れるように展開する映画には、象徴的なシーンや名セリフが多く散りばめられています。また、カサブランカというエキゾチックなロケーションが、ドラマ全体のムードを支えていると思います。エキゾチックな街では、なんでも起こるのです。
カサブランカは、映画ファンなら、一度は訪れたい街です。私も、40年前に、一度訪れました。白い家という意味のカサブランカは、モロッコ最大の都市です。商業・金融の中心地であり、活気あふれる近代都市です。近代化は、都市の個性を奪います。経済都市では、その傾向が一層強くなります。上海しかり、バルセロナしかりです。メディナと呼ばれる旧市街は面白かったのですが、リックの店があるわけでもなく、イルザが歩いているわけでもなく、やや印象の薄い街でした。それもそのはず、映画カサブランカは、すべてハリウッドで撮影されました。カサブランカで、最も楽しかったのは、マラケシュへの遠出でした。乾燥地帯をアトラス山脈に向かって片道3時間という道のりでしたが、たっぷりとエキゾティシズムを楽しむことができました。
モロッコ・ロケは行っていませんが、映画カサブランカは、スタッフにもキャストにも欧州人材を多用して撮られました。バーグマンがそうですし、監督のマイケル・カーティスはハンガリー人です。そのせいか、カサブランカの英語は、とてもシンプルで癖がないと言われます。しばしば英語教育の教材にも使われています。映画の名セリフとは、映画の世界観や登場人物の心象風景が、ごく短い言葉のなかに詰まっているものだと思います。その際、使われる言葉は、よりシンプルな方が、インパクトが強いように思います。そういう意味でも、カサブランカが、名セリフの宝庫であることは当然なのかも知れません。(写真出典:movies.yahoo.co.jp)