2022年7月10日日曜日

アフォガート

初めてアフォガートを食べたのは、夏休みに家族で出かけたローマでのことでした。真夏のローマの日差しは、かなり厳しいものがあります。観光の合間に、ジェラートを食べたり、エスプレッソを飲むことは必須とも言えます。カフェでエスプレッソを飲もうとした時、娘からアフォガートを勧められました。その美味しさに腰を抜かしました。美味しいだけではなく、まさに夏には最適の食べ物だと思いました。以来、夏になると、そして元気を取り戻したい時には、アフォガートが欠かせないものになりました。

アフォガートは、ヴァニラ・アイスクリームに飲み物をかけたものです。アフォガートとは、イタリア語で”溺れる”という意味だそうです。最も一般的なのは、入れ立ての温かいエスプレッソをかける”affogato al caffè”です。ヴァニラ・アイスの冷たさと甘さに、エスプレッソの苦みとカフェインが加わり、絶妙の逸品になります。食べれば、元気回復、間違いなしです。エスプレッソ以外の飲み物は試したことがありません。ただ、濃いめに入れたアール・グレイなども美味しいのではないかと思います。アイスクリームは、何種類か試しましたが、やはりシンプルなヴァニラが良く合います。

アフォガートの起源は、どうもはっきりしません。難しいレシピでもなく、誰でも思いつきそうなドルチェです。とは言え、冷たいものに温かいものをかけるという発想は驚きであり、最初にやった人には脱帽です。五味と言われる甘味、旨味、苦味、酸味、塩味は、人間の体温に近い温度の時に一番強く感じるものなのだそうです。特に、甘味、旨味、苦味は温度依存性の高い味とされます。例えば、アイスクリームは、口の中に入れた瞬間は、冷たさしか感じません。ただ、口の中で溶け始めると、甘みが広がっていくわけです。アフォガートも同じ原理で美味しいのだと思います。エスプレッソの熱さとアイスクリームの冷たさが中和され、苦みと甘みを強く感じるというわけです。

アフォガートを、結果的にはコーヒーフロートと同じじゃん、と言う人がいます。とんでもありません。フロート類は、冷たい飲み物に、アイスクリームを乗せたものです。コーヒーフロートは、アイスコーヒーを使います。要するに、冷たいものに、冷たいものをのせただけです。徐々に溶けていくアイスクリームは、主にミルクと糖分で作られます。つまり、コーヒーフロートとは、冷たくて甘いカフェ・ラテだということになります。組み合わせによる味の変化は起きません。私は、コーヒーフロートも好きです。他にも、コーヒー・リキュール、あるいはコーヒーゼリーやティラミスも大好きです。ただ、アフォガートは、味覚の変化という意味で、一段、格上だと思っています。

ちなみに、コーヒーゼリーは、日本にしかないと言われます。レシピとしては、英国にも米国にもあようです。ただ、食べられることは、ほぼありません。これも不思議な現象だと思います。ところで、ローマの夏の定番としては、グラニータも忘れてはいけません。イタリア版かき氷とも言われますが、氷を削ったものではなく、固まりかけた氷を、ザクザクと砕いたものです。エスプレッソを凍らせて作れば、グラニータ・ディ・カッフェになります。ホイップした生クリームを乗せて食べます。とても美味しいと思います。ただ、やはり美味しさではアフォガートにかないません。(写真出典:mystyle.ucc.co.jp)

マクア渓谷