2022年6月10日金曜日

奥武島

奥武島は、沖縄県南城市にある周囲200m強という小さな島です。本島とは、短い橋でつながっています。漁業の島ですが、西部はダイビング・スポットとしても知られます。何人かで沖縄に行った際、一部は早朝ゴルフにでかけ、他は観光などをした日の夜、皆でステーキ屋に集合しました。すると、琉球ゴルフ倶楽部へ行ったゴルフ組が、プレイ終了後、地元の人に奥武島に案内され、イカすみ汁に大感動したという話を聞かされました。イカすみ汁は食べたことがなかったのですが、聞けば聞くほど食べたくなりました。翌日は、皆で、サザン・リンクスでゴルフという予定でしたので、全員で奥武島へ行こうということになりました。

橋を渡ってすぐの”奥武島食堂”に着いたのは、昼食時を過ぎたあたりでした。お客さんは誰もいなくて、店の人たちがのんびり休憩中といった風情でした。もちろん、イカすみ汁がお目当てですが、空腹だったので、他にも注文しようとしました。ただ、方言がきつくて、なかなかしんどいやりとりになりました。また、奥武島と言えば、もずくやアーサの天ぷらが有名なのですが、天ぷらは、別の店へ行って買う必要がありました。持ち込みは自由です。一人が、人気の”中本てんぷら”に並んで買ってきてくれました。イカすみ汁も、天ぷらも絶品でした。以来、イカすみ汁は、沖縄へ行った際の私の定番になっています。

イカすみ汁は、アオリイカ、豚肉、にが菜を鰹だしで煮込み、最後に、墨袋のイカすみを絞り入れます。イカすみは、結構、油分が強いものですが、イカすみ汁は、しっかりとコクが出て、かつあっさりと仕上がります。このあっさり感が魅力だと思います。イカすみの料理と言えば、ヴェネツィアのイカすみスパゲッティが有名ですが、これもトマトやタマネギで、クドくなりすぎるのを防いでいます。恐らく、イカすみ汁では、鰹だしとにが菜が、その役割を果たしているのでしょう。沖縄の天ぷらも独特な食文化です。なにせ衣が厚いのが特徴です。沖縄の人は、おやつとして食べると聞きます。

小さな島ですが、島の中央部に、沖縄では珍しい観音堂があります。17世紀頃、遭難した唐船を、島の人たちが助けたところ、お礼にと渡された観音様を祀っているのだそうです。やや御嶽(ウタキ)っぽい風情もありますが、紛れもなく観音堂です。島では、5年に一度、奥武観音堂祭が開かれるそうです。スーチマと呼ばれる円陣を組んで奥武島伝統の棒術を演じたり、女性は揃いの絣姿でウシデークという踊りを舞って、観音様に奉納すると言います。沖縄では見かけない独特な祭だと思います。いかに本島に近い小島とは言え、奥武島独特の文化が400年も継承されているあたり、やはり島は島なのだなと思います。

ある時、奥武島に渡る橋のたもとに、黒い3階建ての家が建ちました。地元の噂では、かつて琉球王だった尚家に関係する建物ではないか、とのことでした。今は、また無くなっているようです。イカではありませんが、子供の弁当の定番、あるいは安い居酒屋の定番、タコさんウィンナーを発明したのが、尚家に嫁いだ料理研究家の尚道子だとされています。食が細かった息子の弁当に入れたのが始まりだそうです。1950年代のことでした。ちなみに、尚道子の妹が料理ジャーナリストの岸朝子です。TV番組”料理の鉄人”の審査員として「おいしゅうございます」というフレーズが人気となりました。(写真出典:freestyle-diving.okinawa)

マクア渓谷