2022年5月22日日曜日

M777

ウクライナ東部ルハンシクで、ドネツ川を渡ろうとしたロシア機甲部隊を、ウクライナ軍が壊滅させた、というニュースが流れました。2022年5月12日、ウクライナ軍が公開した映像には、多くの破壊されたロシア軍戦車が映っていました。その数、70台以上とのこと。その攻撃には、アメリカから供与されたM777榴弾砲が使われた模様、とニュースは伝えています。アメリカが最新鋭の榴弾砲150門を供与するというニュースは、少し前から流れており、ウクライナ兵が訓練中とも言われていました。M777の投入で、戦況は大きく変わる可能性があるとも報じられていました。それが、これほど鮮やかな戦果を挙げるとは思いませんでした。

牽引式のM777榴弾砲は、1990年代に、英国で開発が始まり、米国の協力も得て、2005年に完成し、米軍に採用されています。ごくありふれた射程や発射速度ながら、チタン合金を多用するなどの軽量化が図られ、軍用トラックやヘリコプターで、速やかに移動させ、速やかに展開・撤収ができると言います。ロシア軍によって、鉄路や幹線道路が破壊されたウクライナでは、極めて有効な武器と言われます。さらに軍事衛星やドローンとリンクしたデジタル型照準システムを持ち、GPSを内蔵するエクスカリバー誘導弾を装填すれば、95%が目標の5m以内に着弾するという優れものです。一方、ミサイルの時代にあって、今どき榴弾砲なのか、という疑問も浮かびます。

実は、コストの問題が大きいのではないか、と思います。M777は1門4億円程度、エクスカリバー弾は1発1,000万円と言われます。確かに高価ではありますが、ミサイルは、どんな原始的なものでも1基5,000万円は下りません。ロケットエンジンを搭載し、高価な誘導装置を持つわけですから、当然なのでしょう。毎年8月、自衛隊の東富士演習場で、富士総合火力演習が行われます。一度、見せていただいたことがあります。私が見たのは、本番前日に行われる予行演習でしたが、実に迫力のあるものであり、圧倒されました。使われれる弾薬のコストは、予行演習でも3億円、本番では5億円。そのコストのうち大きな部分を、わずか数発のミサイルが占めていると聞きました。

戦争は、多くの人命と人生を奪いますが、同時に、実にお金のかかるものでもあります。石油や天然ガスの輸出で外貨を得ていますが、その経済規模は韓国と同程度というロシアにとって、戦争は大きな出費であることは間違いありません。また、軍事大国とは言え、ミサイルの備蓄には限界があり、巡航ミサイルに関しては、既に不足気味という観測もあります。さらに、英国防省によれば、ロシア軍は、すでに侵攻軍の1/3を失ったともされます。M777とエクスカリバーの投入は、戦況の変化のみならず、プーチンに大きな判断を迫る可能性があります。ただ、ロシア軍の単純な撤退は考えにくく、動員令を発動する、あるいは戦術核の使用といったエスカレートのリスクも視野に入れておくべきと考えます。

ウクライナ侵攻に関わる今後の現実的な選択肢としては、戦況が変わった段階で、第三国の仲介による停戦交渉ということになると思います。仲介国は、相応の外交力を有している必要があります。また、NATO加盟国は、第三国にはなれません。とすれば、中国ということになります。ただ、ロシアとの関係からして、中国を第三国と認められるかどうかは微妙です。通常であれば、国連事務総長も考えられますが、今回、国連は破綻しているとしか言いようがありません。どうも、適当な仲介者も見当たらないように思います。とすれば、一時的な停戦はあるにしても、戦いは長期化すると考えるのが妥当かもしれません。(写真出典:ja.wikipedia.org)

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