2022年5月25日水曜日

赤いバラ

事件直前
1963年11月23日早朝の5時28分、通信衛星を介した世界初の”日米宇宙中継”が行われました。早朝にも関わらず、人類の進歩を見届けようと多くの日本人がTVの前に陣取りました。衛星放送実現を強く後押ししたのがジョン・F・ケネディ大統領でした。ところが、日本時間で当日3時30分頃、そのケネディ大統領が暗殺され、予定されていた放送内容は急遽変更されます。放送は、手書きのフリップとともに「この電波でこのような悲しいニュースをお送りしなければならないのは誠に残念です」という有名なアナウンスから始まりました。皮肉なことに、世界初の衛星放送は、その推進者の悲報を伝えることになったわけです。アメリカの若き大統領は、世界の希望でした。私たちの世代にとって、ケネディ暗殺事件は、忘れ得ぬ事件の一つです。

11月22日、再選を目指すキャンペーンでダラスを訪れたケネディ大統領は、パレード中に狙撃されます。3発撃たれ、2発目が大統領の背中から首を貫通、側頭部に当たった3発目が致命傷となります。直後にリー・ハーベイ・オズワルドが逮捕されます。オズワルドは、犯行を否認し、2日後、移送直前、ダラス警察本部の地下で、ジャック・ルビーに撃たれ、即死しています。この模様は全米に中継されていました。ジャック・ルビーは、シカゴ・マフィアがダラスに送り込んだナイトクラブ・オーナーでした。ルビーは、背後関係を明かすこと無く、67年に獄死しています。暗殺直後に就任したジョンソン大統領は、大統領直属のウォーレン委員会を設置し、事件を調査します。委員会は、オズワルド単独犯行を結論とします。

しかし、この結論には、多くの反証もあり、当初から疑問視されます。その後も、再検証、関連裁判等も行われますが、現在に至るまで、真相は明らかになっていません。その間に、種々の陰謀説も唱えられてきました。CIAに使われていたオズワルドの過去、ルビーとマフィアとの関係が憶測を呼びます。CIA主導で行われたキューバのビッグス湾侵攻は、ケネディが土壇場で正規軍投入を拒否したことで失敗した面もあります。これを恨んだCIA、キューバ人グループ、マフィアによる共同犯行説。ロバート・ケネディ司法長官が進めるマフィア壊滅作戦に対抗してマフィアが実行したという説。また、ベトナムに正規軍を投入しないケネディ、あるいはベトナム介入に疑問を抱き始めたケネディを排除しようとした軍産共同体犯行説も人気があります。

ケネディの大統領選には、父親のジョー・ケネディに依頼されたシカゴ・マフィアのサム・ジアンカーナが関与していたことはよく知られています。マフィアが、協力の見返りに求めたのが、キューバ奪還だったとされます。カストロのキューバ革命以前、ハバナのカジノは、マフィアにとって大きな収入源でした。マフィアからすれば、大統領に当選したケネディは、約束を反故にしたばかりか、弟を使ってマフィア壊滅に動いた恩知らずです。裏切行為そのものであり、マフィアの論理からすれば排除されて当然とも言えます。オズワルドを単独犯に仕立てるにあたっては、CIAの手助けも必要だったはずです。オズワルドの口封じに配下のルビーを使ったことは大胆な行動ですが、マフィアは、家族の命と報奨金をもってルビーを黙らせる自信があったのでしょう。

テキサス遊説中のケネディ夫妻は、各地で黄色いバラを贈られます。テキサスを象徴する名曲「テキサスの黄色いバラ」にちなんだものです。ところが、ダラスの空港では、なぜか赤いバラが贈られます。後に、ジャクリーヌ・ケネディは不思議に思ったと語っています。それから50分後、事件は発生します。真相は不明ながら、利害が共通するマフィア、CIA,キューバ人グループの犯行という説が、最も筋が通るように思えます。”ブラック・ダリア”等LA四部作で知られるジェームス・エルロイは、1995年、”アメリカン・タブロイド”で、FBI、CIA、マフィア、キューバ人グループによる犯行説を小説化しました。狂犬エルロイの迫力ある文章は、これこそ真相と思わせるほどの迫力がありました。エルロイは、その後、”アメリカン・デス・トリップ”、”アンダーワールドUSA”を発表します。これらは、アンダーワールドUSA三部作として知られています。(写真出典:patch.com)

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