2022年5月20日金曜日

「アウトポスト」

監督: ロッド・ルーリー    2020年アメリカ

☆☆☆+

アメリカ史上最長の戦争となったアフガン侵攻ですが、その最も激しい戦闘の一つとされるカムデーシュの戦いを描いた映画です。キーティング戦闘前哨基地(Combat Outpost)は、2006年、アガニスタン東部の最も戦闘の激しい地域に設置されます。四方を高い山に囲まれた谷底の基地は、あってはならない最悪の立地でした。ただ、急峻な山々が連なるヒンドゥークシュ山脈では、他に選択肢がなかったと言います。基地に配属されていたのは53名の将兵でした。日に1~2度、集中砲火を浴びるものの、基地は維持されていました。ところが、2009年10月、基地は、300名以上と言われるタリバン兵に包囲され、総攻撃を受けます。立地の悪さに加え大きな兵力格差は、致命的でした。さらに、基地が遠方に孤立し、かつ天候も悪かったことから、空からの支援もすぐには期待できませんでした。

早朝に開始されたタリバンの攻撃は、RPGと迫撃砲によって、それまで有効に既知を守ってきた米軍の迫撃砲を無力化します。数に勝るタリバンは、戦闘開始1時間で、基地内に侵入し、建屋に火をかけていきます。米兵は、どんどん追い込められていきます。実は、その時、米軍は司令官不在の状態であり、副官である中尉とクリントン・ロメシャ軍曹が指揮を執らざるを得ませんでした。軍曹は、命を省みず、基地内を動き、仲間を助けていきます。そして、ボランティアを募った軍曹は、一か八かのメイン・ゲート奪還に動き、成功します。折しも、攻撃ヘリコプター、A-10対地攻撃機、B-1爆撃機等によるエアー・ストライクが間に合い、形勢は逆転します。結果、米軍53名中、8名戦死、27名負傷。タリバンは、150名以上が戦死したと言われます。壮絶を極めた戦闘だったわけです。

ジェイク・タッパーの原作は、徹底的なヒアリングと綿密な調査によるものであり、映画も、原作に忠実に、かつ実際にキーティング基地で戦った兵士たちのアドヴァイスのもとに制作されています。一名の兵士は、本人によって演じられてもいます。ロッド・ルーリー監督のリアルで緊張感のある映像は、兵士たちによって、戦場の現実を伝えていると高く評価されたようです。ルーリー監督は、ウェスト・ポイント陸軍士官学校卒業という極めて珍しい経歴の持主であり、それゆえ監督を任されたのでしょう。ロメシャ軍曹役には、スコット・イーストウッドが起用されています。親の七光りを避けるために、別名でキャリアをスタートさせたクリント・イーストウッドの息子です。実際のロメシャ軍曹は、口数少なく責任感の強い男であり、スコット・イーストウッドは、当人を思わせる良い味を出しています。なお、Netflixのドキュメンタリー「名誉勲章」で、実際のロメシャ軍曹を知ることができます。

2001年9月11日、同時多発テロが発生すると、ジョージ・W・ブッシュ大統領は、その首謀者とされたオサマ・ビン・ラディンの身柄引き渡しをタリバン政権に要求します。タリバン政権が拒否したため、アメリカは、タリバンに抵抗していた北部同盟と手を組み、アフガンに侵攻します。11月にはカブールを制圧し、タリバン政権は瓦解します。とは言え、各地でタリバンはゲリラ戦を展開します。10年に及ぶアフガン侵攻に失敗したソヴィエトの轍は踏むまいと、アメリカは、軍事攻略と同時に、地域復興チームを全土に展開し、地域開発によって住民の協力を得ようとします。しかし、ほぼ何の効果もあげることはできませんでした。数千年に渡り部族が割拠する山岳国アフガンは、他国が介入してはいけない場所なのです。

兵士の士気が最も高い戦争は、家族と故国を守る戦いだとされます。ヴェトナム戦争では、アメリカ兵たちが戦う意味を失っていました。中東での戦争では、テロから家族と国を守る、あるいは自由を守る戦いと謳われていました。しかし、兵士たちの口からは「仲間のために戦う」という言葉が多く聞かれます。カムデーシュの戦いでも同じです。それは敵弾飛び交う戦場にあっては、いつの世も変わらぬ兵士の思いだと思います。しかし、仲間の命が失われた時、何のための死だったのかという問いが浮かぶはずです。それに対する答え無くして、兵士の士気はもたないように思います。(写真出典:amazon.co.jp)

マクア渓谷