2022年5月12日木曜日

美術展の絵葉書

藤田嗣治展グッズ
かつて、美術展のグッズ販売と言えば、カタログ、複製画、そして絵葉書くらいだったと記憶します。近年の主催者は、マーチャンダイズにも力を入れ、実に多様な品々を売っており、人気となっています。また、美術館のギフト・ショップも充実されました。その背景には、美術愛好家の裾野が広がったことがあると思われます。投資としての美術品の取引は急増しているようですが、絵を描く人やコレクターが増えたわけではないと思います。いわば一般教養として、美術にも目を向ける人が増えたということなのでしょう。マスコミがもたらす情報量の多さによるところも多いと思いますが、海外旅行が一般化し、旅先の美術館等で絵画を見る機会が増えたことも影響しているように思えます。

美術展にマーケティングが導入されると、一般愛好家たちが踊らされるケースも増えてきます。例えば、近年の若冲やフェルメールのブームです。もちろん、若冲もフェルメールも素晴らしいのですが、ブームの過熱ぶりには、いささか驚かされます。明らかにマーケティングの成果と言えます。わずか1~2枚で、若冲展、フェルメール展と銘打ち、人を集める商売のやり方は、如何なものかと思います。美術展のビジネス的側面を否定するものではありません。むしろ良い企画やお金のかかる展示が増えることは大歓迎です。さはさりながら、節操のない商売は、愛好家を減らし、美術展そのもの減少につながりかねません。主催者の皆さんには、是非、プライドをもった企画をしていただき、節度あるマーケティングをしていただきたいと思います。

一昨年、コロナ禍で、各国が企業や商店に対する助成金の給付を始めた時、ドイツの芸術家支援策が話題になりました。記者会見で、その趣旨を問われたドイツ政府の大臣が、芸術は私たちの生活に欠かせない存在ですから、と答えていました。そのきっぱりとした言い方に感動しました。文化の奥深さが違うな、とも思いました。日本の文化庁も、芸術全般に関して、各種支援は行っていますが、一定規模以上の美術展にも助成金を出していいのではないかと思います。金を出せば、国は口も出すことになり、それはそれで問題です。ただ、過度な営利性に対する抑止効果も期待できます。その際、できればシニア料金の設定もお願いしたいものです。もちろん、空席を埋めるための映画館のシニア料金とは、同列に議論できないことは分かっていますが。なお、東京都立の美術館だけは、既にシニア料金の設定があります。

また、マーケティング導入にともなって広告にも力が入り、TVも含めたメディア・ミックス戦略が展開されます。多くの人にアピールするわけですが、一方で大混雑を発生させることにもなります。ちなみに、TVの影響力はすごいものがあり、NHKの日曜美術館で扱われると、爆発的に人が押し寄せます。ただ、展覧会の開期前や開期始めに放送されることは少ないように思います。やはり、一定程度、混雑の発生を避けるよう配慮しているのでしょう。メディア戦略やTVの特集等に取り上げられない、小規模な、あるいは地方で開催される良い企画も多くあります。最近は、美術系サイトも充実し、よく紹介されていますが、NHKの”アートシーン”も、丁寧に拾っていると思います。ただ、時間の短いアートシーンですら、紹介されると大混雑を引き起こします。

話は、美術展のグッズ販売に戻りますが、品目が増えても、昔と変わらず売れているのが絵葉書です。皆さん、買った絵葉書をどうされているのか、実に不思議です。葉書として使う人は少ないと思います。インテリアのアクセントとして使う場合が多いのでしょう。ただ、見ていると何枚も購入している人が多く、そこまでの枚数は不要だと思います。まぁ、安価な記念品として購入されているのでしょう。いい商売をしているな、と思います。一方、展覧会のポスターの販売は見かけなくなりました。かつては、美術展に限らず、様々なポスターを、部屋の壁に画鋲で貼っていたものです。そのような光景は見かけなくなったように思います。思えば、結構、貧乏ったらしい光景でもありました。額装されたパネルは別として、世の中が豊かになり、薄れた文化なのかもしれません。(写真出典:curators.jp)

マクア渓谷