2022年5月30日月曜日

Anything Goes

よらず舞台は楽しくて、はまるものです。舞台の魅力は、様々あるのでしょうが、映画・映像と比べれば、その本質が明らかになるように思います。要は、臨場感ということになのでしょうが、生身の人間が演じているので、受ける印象も感情移入も、より現実的になります。クロード・ルルーシュ監督の「あの愛をふたたび」のなかで、ジャン・ポール・ベルモンドが、つまらないショーを見ている時には、ずっと一人の踊り子だけを見るんだ、と話していました。結構、舞台の本質をついたセリフなのではないかと思います。映画は、我々が見るものを監督がフレームとして決めます。舞台では、常に全体が視野に入っています。よって我々が見るものを決めるとも言えます。

NYにいた頃、日本から来た人たちのお付き合いで、年に2~3本、ブロードウェイ・ミュージカルを見ていました。当時は、「コーラス・ライン」、「レ・ミゼラブル」、「ミス・サイゴン」、「42nd Street」等がヒットしていました。私が、一番好きだったミュージカルは、なんといっても「エニシング・ゴーズ」です。コール・ポーターの大ヒット・ミュージカルです。コール・ポーターは、アメリカを代表する作詞・作曲家です。アイヴ・ガット・ユー・アンダー・マイ・スキン、オール・オブ・ユー、ビギン・ザ・ビギン、ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ等々、数々のスタンダード・ナンバーを生み出しました。また、ミュージカル作者としても活躍し、映画化もされています。

ミュージカルは、大衆芸能だと思います。ブロードウェイ・ミュージカルは、かなりレベルの高い演出・パフォーマンスですが、それでもにアメリカらしい大衆芸能だと思います。シリアスなものも良いのですが、明るく、楽しく、ちょっと涙もある、というスタイルが、最もアメリカ的だと思っています。そういう意味も、「エニシング・ゴーズ」は最高だと思います。NYからロンドンに向かう豪華客船で起きるドタバタを描いたロマンティック・コメディです。ミュージカルのストーリーは、単純なものが良く、そこに、いかにヴァリエーション豊富な歌や踊りを入れられるかという勝負だと思っています。そもそもAnything Goesの意味は”何でもあり”です。「エニシング・ゴーズ」は、何度も上演されていますが、私がリンカーン・センターで見た1988年版は、トニー賞も獲得しています。 

実にアメリカ的なミュージカルを、日本で商業的に成功させたのが、浅利慶太と劇団四季です。1979年上演の「コーラスライン」の成功、そして、1984年、西新宿のテントで行った「キャッツ」のロングラン公演で人気を確立したとされます。「キャッツ」は、日本初のロングラン公演でした。多くの団員を抱え、7つの常設劇場を持ち、年間3,000ステージを公演しています。劇団四季は、とにかくチケットが入手できないほどリピーターで混んでいます。私も、何度か観ました。歌も踊りもレベルが高いと思います。ただ、演奏が生ではなくテープだという点が、ミュージカルの魅力を大きく損ねていると思います。もちろん、それが劇団四季の収支を下支えしているのでしょうが。

「42nd Street」も印象に残るミュージカルでした。1933年のミュージカル映画を舞台化したものです。アメリカ人の大好きなサクセス・ストーリーですが、ブロードウェイの内幕ものでもあります。アメリカ的なサクセス・ストーリーでは、家族や仲間たちによる支え、恋人の理解、意地悪だけど後に良きサポーターとなるライバルや上司といった要素が定番です。「42nd Street」には、その全てが入っています。そして、ミュージカル制作者たちへの深い愛情も伝わる傑作でした。ミュージカルもそうですが、舞台は、観るものも、創るものも、一度ハマったら、なかなか抜け出せない魔力があると言えます。(写真出典:anythinggoesmusicalcinema.com)

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