出張の多い仕事だったので、老後移住の可能性という目線を持って、日本各地を見てきました。一定の都市機能とその継続性に加え、温暖で、災害に強く、排他的ではない土地柄といった条件も含めて、住めるかどうかを見ていました。日本全国にいい街は多くありましたが、移住先としては、どこも一長一短あり、ここぞという街はありませんでした。恐らく、どこも住めば都なのでしょうが、今一つ、決定力に欠けました。別な言い方をすれば、必要性に乏しい、ということになります。恐らく、皆、同じような思考過程を経て、かつ子供や孫のことも考慮して、老後も東京に留まっているのでしょう。東京一極集中は、なにも経済的理由だけで起きているわけではないと思います。
リタイアした人たちも東京に住み続けている、と話すと、アメリカ人は驚きます。少なくともNYあたりでは、結婚すると家かコンドミニアムを購入し、子供ができると、それを売って、もう少し広い家を買い、子供が大きくなると、さらに大きな家に越し、リタイアすると、それを売って、フロリダあたりに終の棲家を購入する、というパターンが一般的です。近所の人がリタイアして、フロリダのゴルフコースに隣接した家を買い、引っ越していきました。聞けば、NY近郊の家を売った金額の1/4程度で、フロリダの家が買えたそうです。その差額が老後生活のための蓄えになるわけです。年金だけで、生活でき、年に2回くらいの旅行も出来るよ、とも言っていました。
うらやましい人生設計ですが、それを可能にしている大きな要素は、中古住宅市場の存在です。それは、家が長持ちするという大前提のうえに成り立っています。近所の家は、すべて木造建築でしたが、第二次大戦前に建てられたものがほとんどでした。しっかりとした造りで、かつ地震等の災害も少ないこともありますが、日本の家屋に比べて長持ちするのは、恐らく湿度の違いなのだろうと思います。湿潤な日本に比べ、アメリカ北東部は乾燥しています。日本から持って行った漆器類は、乾燥した空気にやられ、すべて割れてしまいました。家が長持ちし、中古住宅市場が存在することで、社会全体の蓄積が増し、その効率の良さが結果として、生活の豊かさをもたらしているとも言えるのでしょう。
東京の新築マンション価格が高くなり、中古マンション市場も高騰しています。マンションに暮らす知人たちに聞くと、購入価格を2~3割超えているところもあるようです。今が売り時でしょうと言うと、売っても、次の住処が高くて買えない、と返されます。中古マンションの出物が限られ、価格はさらに上昇するわけです。日本の高齢化と不動産流動化を考えれば、今、日本に必要なのは、フロリダかもしれません。(写真出典:bisinessinsider.com)