監督:エド・ハリス 2008年アメリカ(日本未公開)
☆☆☆
(ネタバレ注意)
エド・ハリスは、大好きな俳優です。アメリカらしさを感じさせる貴重なバイ・プレーヤーだと思います。高校時代はフットボール選手として鳴らし、その後、舞台からTV、そして映画へと移った俳優ですが、実に長いキャリアを持っています。「アポロ13号」や「トゥルーマン・ショー」でアカデミー助演男優賞にノミネートされたこともあります。「アパルーサ」は、ロバート・B・パーカーの原作をもとに、エド・ハリスが製作・監督・脚本・主演をこなした西部劇です。アパルーサは、欧州原産、アメリカで改良された斑点のある丈夫な馬です。パルース川沿いでネズパース族が育てたことからアルパーサと呼ばれるようになったようです。映画では、象徴的に町の名前として使われています。ガンマンであるヴァージルとエヴェレットは、東部から流れてきたギャングに脅かされるアパルーサの町で、保安官として雇われます。そこへ美しく魅力的な未亡人アリソンが流れ着き、ヴァージルといい仲になります。ヴァージルとエヴェレットは、ギャングを捕らえ、裁判にかけます。絞首刑が決まったギャングは、密かにガンマンを雇います。アリソンを人質にとったガンマンは、移送中のギャングを奪います。追跡したヴァージルとエヴェレットは、ガンマンを倒しますが、ギャングを取り逃します。大統領恩赦を得たギャングは、金持ちになって町に戻ります。アリソンは、羽振りのいいギャングになびきますが、ヴァージルはアリソンと所帯を持ちたがります。エヴェレットは、ギャングと決闘して倒し、一人で町を去ります。
スペンサー・シリーズで知られるロバート・B・パーカーですが、さすがに、本作もただの西部劇ではありません。しっかりとした構図が面白い西部劇になっています。やや図式的な印象もあります。ヴァージルとエヴェレットは、アメリカ西部の象徴そのものであり、その時々の強い男になびくアリソンは、アメリカの大衆なのでしょう。暴力にまみれたアメリカ西部(ヴァージル)は、浮気性は承知の上で大衆(アリソン)に沿う、つまり民主主義を選択する。それを阻害する東部エスタブリッシュメントの植民地主義(ギャング)を排除するのも西部の暴力(エヴァレット)だが、暴力はそれを最後に終わる、ということでしょうか。本作は、ワイルド・ウェストと呼ばれる暴力にまみれた西部開拓史を、歴史上、通るべき道だったと肯定しているのでしょう。
クールで信義に厚いガンマン・エヴェレットを演じたヴィゴ・モーテンセンは、いい味を出しています。この人を見ると、どうしても「ロード・オブ・ザ・リング」のアラゴルンを思い出してします。アリソン役には、レネー・ゼルウィガー。この人は、その表情で多くを語れる、まさに名優なのでしょう。この映画が説明的になることを防いでいるのが、まさに彼女の演技だと言えます。ギャング役は、ジェレミー・アイアンズが演じ、映画を締めています。キャストは良いのですが、エド・ハリスの演出は、やや詰め込みすぎで、方向感が曖昧になったきらいがあります。西部開拓史の挽歌として、ノスタルジックに仕上げた方が、より深みのある作品になったのではないか、と思います。
本作は、日本未公開で、ビデオ化されています。アメリカでは、そこそこヒットし、評価も高かったようですが、日本の配給会社が日本の観客向きではないと判断したのでしょう。そういう作品は、山ほどあると思われます。配給会社も、ご商売ですから、利益の出そうにない作品に投資は出来ません。当然です。ただ、ネット配信の時代になると、投資のハードルは下がるわけですから、こういう作品もどんどんアップしてもらいたいものだと思います。(写真出典:amazon.co.jp)