Rocky Steps |
にも関わらず、どうも今一つ魅力に欠ける街だと思います。その証拠の一つが、いまだに観光スポットのナンバー・ワンが、フィラデルフィア美術館であることです。一番人気である理由は、その巨大な建屋に収蔵された美術品ではなく、大ヒット映画「ロッキー」の中で、早朝ランニングするロッキーが階段を駆け上がり、雄叫びをあげた場所だからです。フィラデルフィア美術館を訪れる多くの観光客は、美術館に入場することなく、ロッキー・ステップスとも呼ばれる階段のうえで、ロッキーと同じヴィクトリー・ポーズをとり、写真を撮って帰って行きます。ご丁寧なことに、美術館の前には、ロッキーの像まで置かれています。まぁ、30万点と言われる美術館の収蔵品も、意外とつまらないものが多いのですけどね。
1976年から全6作が撮られたロッキーは、いまだにアメリカ人の心の拠り所です。ポルノ映画出身でシチリア顔の俳優が持ち込んだ脚本は、当人を主役に低予算のB級映画として制作されました。何の期待もされていない映画でしたが、公開されると熱狂的に受け入れられ、歴史的な大ヒットとなり、様々な賞を総なめにします。ロッキーの奇跡的な勝利とシルヴェスター・スタローンの突然の大成功は二重写しとなり、アメリカン・ドリームの象徴となりました。また、映画だけではなく、ビル・コンティが作曲した「ロッキーのテーマ」も大ヒットし、世界中の誰もが知っている曲となりました。当時、ヴェトナム戦争の敗北で、意気消沈していたアメリカが、自信を回復するきっかけになったとまで言われます。
フィラデルフィアで忘れてはいけないものの一つが、フィラデルフィア・ソウルです。1971年に設立されたプロダクション「ギャンブル&ハフ」が生み出した都会的で洗練されたソフト・ソウルが、一世を風靡しました。当時は、若年層を主なターゲットとしたモータウン・サウンド一色の時代でした。大人向けの甘いソウルは新鮮だったわけです。オージェイズ、スピナーズ、スタイリスティックス、スリー・ディグリーズなどが、立て続けにヒットを飛ばしました。スタイリスティックスの”You Make Me Feel Brand New(邦題「誓い」)”などは、ソウル・バラードの傑作であり、今でも大好きな曲です。当時人気だったTV番組「ソウルトレイン」のテーマもフィラデルフィア・ソウルですが、皮肉なことにディスコ・ブームに押されたフィラデルフィア・ソウルは下火になっていきました。
10年前、フィラデルフィアで開催された国際的コンベンションに参加しました。同じ会社から10人ばかり参加したので、会社経費でディナーをご馳走することになりました。私が選んだ店は、フィラデルフィアから車で1時間ばかり行ったデラウェア州ブランディ・ワイン・ヴァレーの店でした。田園地帯にある築200年を超える建屋と美味いアメリカ料理が自慢の店です。皆さんに喜んでもらえました。昔、行ったことがのあり、いい印象を持っていたから選んだのですが、州境を超えてまで行った最大の理由は、フィラデルフィア市内に魅力的な店が見つからなかったからです。(写真出典:seesight-tours.com)