監督:ナヴォット・パプシャド 2021年アメリカ・ドイツ・フランス
☆☆+
ミルクシェイクは、ミルク、アイスクリーム、フレイバーをミキサーにかけて作ります。これがアメリカ式と呼ばれ、フランス式では、アイスクリームではなく卵黄が使われます。アメリカでは、ホリディ・シーズンの定番飲み物として”エッグノッグ”があります。これは、ミルクと卵とアルコールで作られ、風邪をひいたときにも飲まれます。日本風に言えば、卵酒のようなものです。ミルクシェイクは、エッグノッグから派生した飲料だと思われます。日本に入ってきたのは、明治末期から大正の頃と言われ、永らく”ミルクセーキ”と呼ばれ、ご当地ミルクセーキもあります。マックシェイクが登場してから、ミルクセーキという呼び方は、昭和の香りのする言葉になったように思います。「ガンパウダー・ミルクシェイク」は、面白い素材を多く含んでいますが、ミキサーの回し方が不十分だったようで、十分には味がこなれていません。主人公と母親、主人公と孤児になった少女、バックアップする女性だけのチーム、彼女たちの本拠地としての図書館、コミック風のアクション等々、面白いプロットが含まれています。ただ、要素が多すぎて未整理状態であることが問題です。それがためにテンポが悪くなり、各要素の魅力も半減し、主人公を演じたカレン・ギランの演技やアクションも中途半端になっています。アクション・シーンも、見せ方はコミック調ですが、アクション自体は、結構、古風な代物になっています。
とにかくベクトルがはっきりしない映画という印象です。続編の製作も決まっているようですので、腹をくくって、テンポの良い、スタイリッシュなアクション・コメディを追求した方がいいのではないかと思います。例えば、ドラマの縦糸になっている母と娘の関係などに、説明的なショットは不要です。印象的な、あるいは象徴的なカットひとつで十分以上の効果が得られるはずです。楽曲の使用について、もう少し角度を付けた方がいいと思います。ジャニス・ジョップリンの使い方は見事でしたが、全体的には散漫な印象が残ります。例えば、女性シンガーだけで揃えたら、面白かったのではないかと思います。
リュック・ベッソンの「レオン」が公開されたのが、1994年、もう30年前のことです。しかし、今もレオンにインスパイアされた作品が続きます。本作も、レオン系と言えるのでしょう。ざっくり言えば、とうが立ったチャーリーズ・エンジェルを率いたマチルダといった風情です。これまで男性的と思われていた世界で女性を活躍させるスタイルが大はやりです。大きなトレンドではありますが、それだけで話題になった時代は過ぎ去ったと思います。女性がすごいアクションをするといったギャップにだけ頼るのではなく、男であろうが、女性であろうが、クオリティの高さが求められる時代に到達したと言えるのではないでしょうか。
主人公の母親をリーナ・ヒーディが演じています。リーナ・ヒーディは、HBOの「ゲーム・オブ・スローンズ(GOT)」でサーセイ・ラニスターを演じ、数々の賞を獲っています。9年も続いたシリーズのラストで最も注目されたのが、サーセイの死に方でした。結果については、賛否両論ありましたが、いずれにしても、やたら登場人物の多いシリーズのなかで最も注目されたキャラクターの一つだったと言えます。いまだGOTロスを抱える人間にとって、久々にサーセイ・ラニスターの勇姿を見れたことが、この映画の最良の部分だったようにも思います。(写真出典:filmarks.com)