2022年2月5日土曜日

麒麟山

麒麟山
新潟県の阿賀野川に面する津川町は、大好きな町の一つです。現在は、合併して阿賀町津川となっています。江戸期までは、会津藩の川港として栄えました。会津からは米が、新潟からは塩が行き交った交通の要所です。日本屈指の水量を誇る阿賀野川は、津川から日本海までは広い川幅を持ち、ゆったりと流れています。ただ、阿賀川と呼ばれる会津から津川に至るまでは、難所も多い山間の川です。かつて会津盆地から津川までは馬を使っていましたが、江戸中期以降は船を使えるよう整備されました。津川の名勝である麒麟山は、阿賀野川に面した標高191mの小山です。形状が、中国の想像上の動物”麒麟”に似ていることから名付けられ、険しい山頂には出城が築かれていた時期もあるようです。

麒麟山は、昔から、狐火が多く見られることでも有名だったようです。世界一多く狐火が発生する場所とも言われるそうですが、根拠ははっきりしません。狐火は、火の気のないところに、提灯のような火が一列になって現れる現象です。日本では、人をばかすとされる狐に結びつけられてきました。有名なところでは、王子の狐火があります。関八州の狐たちが、大晦日、官位を授けてもらうために王子稲荷神社に集まるとされていました。狐火は、世界中で見られますが、いまだに科学的な解明がなされていない怪現象です。湿度の高い日に扇状地で多く見られることから、空気の屈折による現象というのが、最も有力な説です。

”狐の嫁入り”と言えば、天気雨のことですが、実は、狐火を指すこともあります。狐の嫁入り行列の提灯に見立てたわけです。津川では、麒麟山の狐火にちなんで、1990年から、毎年5月3日に「狐の嫁入り行列」というイベントを開催しています。行列は、夕方から夜にかけて、江戸の風情を残す津川の町を進み、結婚式と披露宴は、麒麟山で行われます。フィナーレは、新郎新婦を船に乗せて送り出すそうです。なかなかに幻想的なものだと聞きます。行列参加者は、皆、狐のメイクをします。また、5万人といわれる観光客も、希望者は狐のメイクをしてもらえます。町が狐だらけになるわけです。

私が、津川で最も気に入っているのが、狐の嫁入り屋敷と麒麟山温泉です。狐の嫁入り屋敷は、阿賀野川沿いに、昔の船問屋の屋敷を模して建てられたテーマ施設です。木造の建屋の1階には、狐の嫁入り行列関係の展示、食堂、土産物があります。2階には、大座敷と個室があり、3階の展望室からは、阿賀野川と常浪川の合流地点と麒麟山を見渡すことができます。はじめて狐の嫁入り屋敷を訪れ、2階の座敷を見た瞬間、私は、是非ともここで宴会をやりたいと思いました。90年代に建てられた施設ですが、妙に懐かしさを覚え、江戸期の津川の賑わいをイメージすることができました。ただ、座敷を借りることは出来るようですが、宴会が出来るかどうかは微妙です。

麒麟山温泉は、阿賀野川に面した小さな温泉地です。その歴史は江戸期以前にさかのぼるようです。かつては数軒の宿があったのですが、2011年の新潟・福島豪雨の際に被害を受け、2軒を残して、すべて廃業しました。露天風呂から眺める阿賀野川の悠然とした流れと風情あふれる麒麟山の姿は、まさに絶品です。特に雪景色は、山水画の世界を思わせます。露天風呂に浸かりながら、地元の名酒”麒麟山”をいただけば、仙境に遊ぶ、といった心持ちになり、漢詩の一つもひねりたくなります。(写真出典:yukoyuko.net)

マクア渓谷