2022年2月28日月曜日

ホテルの備品

正直に告白します。実は、30年前、沖縄の残波岬ロイヤルホテルからバス・タオルを持ち帰りました。盗むつもりなどありませんでした。チェックアウト後に、ホテルのビーチで遊ぼうと思い、持ち出しました。後で、フロントへ返すつもりでしたが、出発時、時間がタイトになってしまい、結果、そのまま持ち帰りました。ホテル仕様のバス・タオルは、とても丈夫にできているので、自宅で永らく、大切に使わせていただきました。誠に申し訳なかったと思っております。

数年前、舞浜のホテルで社長を勤めていた知人から聞いた話ですが、中国からのお客さまが、ホテルの備品を様々持ち帰るので困っているというのです。最も多いのが、カトラリーであり、被害額は、年間、1千万円を超えるとも言っていました。中国からの観光客が急増し、いわゆる”爆買い”という言葉が生まれた頃のことです。中国沿岸部を中心に、富裕層が生まれるなど、個人の収入が上がり、またヴィザが緩和されたこともあって、中国からの旅行客が急増したわけです。さらに円安が続き、日本での買い物が割安だったことも大きな誘因でした。高度成長期の日本人がそうだったように、多くの中国人も、まだ旅慣れていないからこそ発生する事象なのだろうと思っていました。

ところが、件数は別としても、ホテルからの備品の持ち帰りは、日々、世界中で発生しているものだそうです。欧州の5つ星と4つ星ホテルの従業員各500人に、”持ち帰り”に関するアンケートをしたという記事を読みました。”持ち帰り”と言っていますが、立派な”盗難”です。部屋の備品を盗めば、犯人は明確です。にもかわらず、よくやるな、と思います。アンケートは、客の国籍によって持ち帰る品に違いはあるか、という内容です。はっきりと国民性が出るもののようです。フランス人のTVやステレオ、スイス人のドライヤー、オーストリア人の食器、イタリア人のワイン・グラス、ドイツ人のタオル、オランダ人の電球とトイレット・ペーパーなどです。陸続きの欧州では、車を使って旅をすることも多く、客室フロアから駐車場へ直行できるエレベーターがあれば、簡単に持ち帰ることができるわけです。

さらに、驚いたことに、4つ星よりも5つ星ホテルの方が、高級品を持ち帰る傾向が多いようです。例えばTVは4つ星の9倍、美術品は5.5倍、タブレットPCは8倍、そしてマットレスが8.1倍だそうです。ここまでくると、開いた口が塞がりません。5つ星に対して4つ星ホテルでの持ち帰りは、運びやすい消耗品が多いようです。5つ星ホテルの方が、設備も良く、宿泊料も高いはずです。高額なホテル代を支弁できる人たちの方がモラルが低いということになります。何故かは分かりません。お金持ちは強欲だと言うべきか、強欲だからお金持ちになったと言うべきなのでしょうか。料金が高いので、多少の持ち帰りくらい許されるとでも思うのでしょうか。いずれにしても、高級ホテルで、備品の持ち帰りをするのは、当然、常連客ではありません。

5つ星ホテル、ラグジュアリー・ホテル等の基準は、格付する機関によって異なるのでしょうが、清潔・快適といったホテルとしての基本要素だけでないことは明らかです。豪華な設備、贅沢な空間、評価の高いレストラン、行き届いたサービス、あるいは格式の高さや伝統といった要素もあるのでしょう。なかでも、格式や伝統は、ホテル側の努力だけでは成り立たず、むしろ常連客が形成している面もあります。その文化の一部になる、あるいはその文化を尊重するという意識を持たず、金でサービスを買うだけという程度の認識ならば、泊まるべきではないのかも知れません。一流ホテルは客によって創られるということです。(写真出典:ruxur.net)

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