2022年2月20日日曜日

「ライダーズ・オブ・ジャスティス」

監督:アンダース・トーマス・イェンセン   原題: Retfærdighedens Ryttere   2022年デンマーク

☆☆☆+

*ネタバレ注意

監督・脚本のアンダース・トーマス・イェンセンは、デンマーク映画界を代表する脚本家ですが、監督作品としては、本作が5作目となります。さすがによく出来た脚本です。ユニークな設定ですが、一見すると単純な復讐劇に見えます。ところが、実は社会的弱者の連帯をテーマとしたヒューマン・ドラマです。コミカルな要素に加え、ストレートな復讐ストーリーではなく、ひねりを加えることによって、テーマへの訴求を強めるという高度な業を見せています。ややもすれば押しつけがましさが全面に出てきがちなテーマですが、北欧流のドライな演出が、ウェット感を適度に押さえて、いい味を出しています。不思議なテイストを持った、ある意味、とても北欧的な映画です。

主役は、戦争に取り憑かれ、家族を失いつつある国防軍兵士です。兵士の妻は、電車事故で亡くなり、彼と思春期の娘が残されます。その電車に乗り合わせた統計学者は、遭遇した事故は陰謀なのではないかと疑念を持ちます。彼は、かつて自動車事故で娘を失い、自身も片腕が麻痺しています。それ以降、運命論に取り憑かれています。彼の仕事仲間で友人の2人は、アスペルガー症候群のITおたくです。統計学者の疑念を解明すべく、この4人が、それぞれの得意分野を活かして協力します。謀略疑念は、公判を控えるギャングのボスが、重要な証人を事故に見せかけて殺害したのではないか、というものでした。精神疾患を持つ社会的弱者4人によるギャングへの復讐が始まります。ちなみに、”ライダース・オブ・ジャスティス”とは、ギャング団の名称ですが、皮肉の効いたネーミングであり、タイトルです。

主演のマッツ・ミケルセンは、国際的に大活躍するデンマーク俳優です。いつもとはまるで違う見た目なので、すぐには分からないほどでした。途中から、男娼に売り飛ばされたウクライナの青年が仲間にくわわりますが、彼も含めて、皆、いい味を出しています。よく揃えたものです。兵士の娘は、その純粋さゆえに、表面的な部分に惑わされることなく、彼らのやさしさを見抜き、絆を強めていきます。いわば聖母の役割なのでしょう。そう考えれば、彼らは聖家族のようにも思え、それがギャングに打ち勝つという宗教的な意味合いもあるように思えます。ルター派信仰は、その気候とともに、北欧の人々の人格形成に深い影響を与えています。

かつてデンマークは、北欧全域と英国を支配する大国でした。16世紀以降は、戦争に負け続け、現在は、小国と言わざるを得ません。ただ、経済的には、世界的企業も多く、海運や酪農も盛んで、実に豊かな国です。600万に満たない人口のデンマークには「総防衛」という考え方が根付いており、徴兵制が維持されています。国防軍の設立目的に、世界平和の維持が掲げられ、NATOの一員でもあることから、海外派兵には積極的な国です。ある意味、小国が、欧州域内で存在感と独立性を維持するためには、大国と協調していくしかない、とも言えます。マッツ・ミケルセン演じる主人公の兵士も、湾岸地域への度重なる派遣で、精神を病んでいったわけです。国の犠牲になったとも、小国の悲哀とも言えそうです。(写真出典:filmarks.com) 

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