2022年2月19日土曜日

メトロポリタン美術館

NYは、ビジネスやショーなど様々な顔を持つ街ですが、同時に、世界中から人が押し寄せる観光地でもあります。観光客数は、コロナ前、年間6,000万人を越えていたようです。人気の観光スポットと言えば、自由の女神、エンパイヤ-・ステイト・ビル、セントラル・パーク等でしょうが、NYで行くべきところのナンバー・ワンは、メトロポリタン・ミュージアムだと思います。 1870年に開館したメトロポリタン美術館の所蔵品は300万点を超え、100周年の際に行った拡張工事で、その広さは東京ドーム4個分に達しています。18世紀までのフランスの富を象徴するルーブル、19世紀までの英国の富の結集であるナショナル・ギャラリー、そしてアメリカの時代と言われた20世紀の富を見事に具現化しているのが、メトロポリタン美術館だと思います。

1990年前後、私がいたNYオフィスは、3つの現地法人が同居し、社内的にはNY駐在員事務所という組織も兼ねていました。当時、NY事務所には、日本からの来訪者が、オフィシャルなものだけでも年間70組ほど訪れていました。事務所に挨拶に来るだけという来訪者から、本社指示でフルアテンドする場合まで様々でした。結果、私は、最低でも年に5~6回は、メトロポリタン美術館を案内していました。所蔵品のうち展示されているのは1/4程度と言われますが、それでも70万点に及びます。丁寧に鑑賞するなら、1週間はかかります。多くの来訪者は、空いた時間で行きたいというので、私は、独自に、1時間超早回りコース、2時間早回りコース、3時間標準コースなどを設定していました。基本的に大好きな場所だったので、得々として皆さんを案内していました。

国立新美術館で開催されているメトロポリタン美術館展を見てきました。メトロポリタン美術館が、自然採光化をより進めるための工事に入ったために実現した展覧会だと聞きます。至宝クラスは少ないものの、有名作家をズラリと並べた質の高い展示になっていました。初期ルネサンス、北方ルネサンス、ルネサンス、バロック、ロココ、新古典主義、ロマン派、写実主義、そして印象派、後期印象派、それぞれを代表する作家の作品が並び、まるで西洋絵画史の講義を受けているような風情でした。至宝クラス抜きでも、そのような展示ができる美術館など、ルーブル以外にはメトロポリタンくらいしかないのではないでしょうか。今更ながらに、その凄さに感心させられます。

展示品のなかでは、ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの「女占い師」が一番の推しらしく、ポスターにもなっています。この作品はじめ、日本初公開作品が数多くあります。初期のカラヴァッジオ「音楽家たち」は、後の濃い陰影表現とは異なりますが、既に官能的で異彩を放ちます。現在、メトロポリタンは、5枚のフェルメールを所蔵していますが、うち晩年の作品「信仰の寓意」が来ています。典型的な窓辺の女性という構図ではありませんが、フェルメールらしい技巧が光ります。私が、最も楽しみにしていたのが、ディエゴ・ベラスケスの「男性の肖像」です。これはメトロポリタンが、70年前から、ベラスケスの弟子の作品として所蔵していたものですが、2009年、修復作業をした結果、ベラスケス直筆と認定されたという作品です。実にベラスケスらしい作品でした。メトロポリタンが所蔵するベラスケスと言えば「ファン・デ・パレーハ」が有名です。かつては、メトロポリタンで最も高価な絵画とされていました。

私の1時間超早回りコースでは、ルネサンス、バロックあたりの名品を中心にしたいところでしたが、最も多くの時間を割いたのは印象派、後期印象派でした。何故かは知りませんが、日本人は印象派、後期印象派が大好きだからです。とは言え、いずれのコースでも始まりは、ロビー右手のエジプト室でした。エジプトから、まるごと移築したデンドゥール神殿で驚いてもらうためです。メトロポリタンを構成しているアメリカの富の力を知ってもらうためでもあります。そのために最適な場所は、マンハッタン島北端近くにあるメトロポリタン美術館別館クロイスターズですが、ちょっと遠くなるので、なかなか案内できませんでした。ロックフェラー2世が、ヨーロッパ各地の修道院を移設して構成した建物は、中世そのものであり、展示される中世美術の数々も含め、そこはヨーロッパそのものです。(写真出典:artexhibition.jp)

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