2000年頃、提携業務がスタートしたことから、松下電器の役員と食事したことがあります。その際、他社が撤退を続けるなか、松下電器だけが系列店の立て直しに奔走する理由を聞くことができました。「ナショナル・ショップは、創業者が、全国の電器店を一軒一軒訪ねて『一緒にやりましょう、共存共栄をはかりましょう、松下は裏切りません』と頭を下げて歩いたからこそ出来たネットワークです。創業者の約束したことを破るわけにはいきません」とのことでした。鳥肌が立ちました。松下幸之助、そしてそのDNAが脈々と受け継がれる松下電器の商売哲学に感銘を受けました。
かつて日本一を誇った松下電器も、家電業界が崩壊していくなか、辛酸をなめる事になりました。松下電器は、系列店維持のために苦労しましたが、店主たちも厳しい選択を迫られました。結果、町の電気屋が、本来的に持っていたマーケティング上の利点を強化する形で、ナショナル・ショップは見事に生き残りました。量販店との価格競争から身を引き、リピーター戦略に特化したのです。店の周囲は、高齢世帯だらけになっていました。ちょっととした故障、電球一つの取り替えにも丁寧に対応することで、ナショナル・ショップは、地域に欠かせない存在になっていきます。当時、ナショナル・ショップで一番売れているのが、まだ高価だった大画面の薄型TVと聞き、驚きました。
家電には寿命があります。製品によって異なるわけですが、おおよそ10年と言われています。いわゆる買換需要が確実にあるので、リピーター戦略は、町の電気屋さんに適しています。1950年代、家事の合理化需要も高まり、家庭の電化が始まります。TV・冷蔵庫・洗濯機は三種の神器と呼ばれました。以降、技術革新が続き、買換時期が到来する前に、新製品が売れていく時代が続きました。近年で言えば、薄型TVは大ヒットでした。ただ、全自動洗濯機、4KTV等は、革新的とまでは言えず、微妙なヒットに留まっていると思います。ところが、パナソニック・ショップでは、確実に売れているわけです。まさに、リピーター戦略の賜物です。老人たちは、日頃、お世話になっている電気屋さんが勧める商品は、ほぼ確実に購入するわけです。
現在、パナソニック・ショップは、全国に1万5千店舗あり、パナソニックの売り上げの2割を担っているようです。最盛期とは比べものになりませんが、パナソニックにとっては、依然、売り上げのアンカーと言えるのでしょう。ただ、町の電気屋さんは、後継者問題に悩んでいるようです。かつてのような荒稼ぎが期待できない以上、無理からぬ話です。うちの近所の電気屋さんは、ほぼシャッターを閉めた状態ではありますが、高齢になった店主が、昔からの顧客の修理需要にだけ応えているようです。(写真出典:takeden.machiden.net)