アルバム名:ZECA APRESENTA - O QUINTAL DO PAGODINHO(2012) アーティスト:ゼカ・パゴヂーニョ
ゼカ・パゴヂーニョは、ブラジルを代表するサンバのシンガー・ソングライターです。1959年、リオ・デ・ジャネイロの中産階級の街イライジャーに生まれています。母方は、ブラジルの初代大統領マヌエル・デオドロ・ダ・フォンセカにつながる家でした。幼少期から、サンバの名門チーム”ポルテーラ”に出入りし、早くからその才能は注目されていたようです。1983年にレコード・デビューし、自身の多くのアルバムだけではなく、ゲストとして多数のアルバムにも参加しています。独特な声とリズム感の強い歌声は、一度聞いたら忘れません。ゼカ・パゴヂーニョは、リオ・デ・ジャネイロ郊外の高級住宅街バーハ・デ・チジューカに、家族とともに住んでいます。そのゼカ・パゴヂーニョの自宅の庭で録音されたのが、このアルバムです。ブラジルのサンバ界を代表する歌手や演奏者が、ガーデン・パーティに会して、各人の代表曲を演奏するという奇跡のライブ・アルバムです。アルバムのタイトルを直訳すれば「ゼカ・プレゼンツ”パゴヂーニョの裏庭”」となります。実にうまいネーミングです。また、アルバムのロゴもいいですね。このロゴは、ブラジルを代表するビール”ブラウマー”とタイアップしたもので、会場のミュージシャンたちも、このロゴのビールを飲んでいます。DVDを見ると、演奏者以外にも多くの人々が映っていますが、招待された文化人や著名人たちのようです。まさに裏庭でで、仲間たちが気軽に演奏している風情です。
ただ、リラックスしたムードのなかでも、演奏はとてもレベルの高いものになっています。さすがに一流のミュージシャンです。参加したミュージシャンを挙げれば、キリがないのですが、パウリーニョ・ダ・ヴィオラ、ベッチ・カルヴァーリョ、ウィルソン・ダス・ネヴィス、マルコス・ヴァーリ、またカエターノ・ヴェローゾの妹マリア・ベターニアといったサンバの歴史に登場するような大物が並びます。ただ、大ベテランだけでなく、若手も多く登場します。サンバ・ノヴァの旗手ホベルタ・サーやエリス・レジーナの娘マリア・ヒタも参加しています。言ってみれば、自宅の庭で、紅白歌合戦をやっちゃった、という感じです。
サンバは、実に幅の広い音楽なので、このアルバムがサンバのすべてをカバーしているわけではりません。ただ、ここ30年くらいのサンバのメイン・ストリームは、おおむね、ここで聞くことができるのではないでしょうか。曲も歌手も素晴らしいのですが、特に感心させられるのは、バック・バンドのレベルの高さです。庭でビール飲みながら、この見事な演奏です。どれだけ上手い人たちなんだろうと思ってしまいます。ゼカ・パゴヂーニョが率いる自身のバック・バンドではなく、当代一流のミュージシャンが集められているようです。音楽が一大産業というブラジルでは、ミュージシャンの数も半端ないわけです。そのなかの選りすぐりですから、間違いありません。
これだけのミュージシャンが一同に会するわけですから、ゼカ・パゴヂーニョが、いかに大物かが分かります。しかし、彼の影響力だけでは、実現できなかったはずです。日程や契約関係の調整実務は、気が遠くなるほど大変だったはずです。というか、企画段階で、真っ先にボツになるような代物です。ゼカ・パゴヂーニョの影響力、スタッフの努力に加えて、サンバを愛するサンビスタたちのハートがピッタリ合い、リオでしかあり得ない奇跡の一枚が生まれたわけです。(写真出典:amazon.co.jp)