2022年1月27日木曜日

フラットな組織

 IT産業が躍進し、GAFAが世界を席巻すると、会社組織のフラット化、あるいはフラット組織が注目されます。カジュアルな服を着て、フリー・アクセスの職場で、自由気ままに働く姿が、フラットな組織を象徴していました。開発系の企業はもとより、生産を海外に委託し、経営・開発・マーケティングだけを行うビジネス・モデルが、それを可能にしていました。ことに若い人たちが立ち上げるスタート・アップ企業は、皆、そのスタイルです。ただ、ペンシルベニア大のウォートン・スクールの調査によれば、失敗したスタート・アップの多くが、フラットな組織ゆえに崩壊していると言います。大雑把に言えば、統制や調整機能が弱いことの弊害だと考えられます。

組織とは、目的を共有し、統制システムを持った集団だと理解できます。ビジネスにおいては、目標共有と役割分担が組織を構成します。組織の規模が大きくなると、階層化が進み、硬直化傾向が現れてきます。組織のフラット化は、環境変化への対応力、機動性、結束力等の向上に有効であり、個々人の能力を引き出す効果も大きいと考えられます。特に開発系の仕事では効果的であり、ミーイズムの強いミレニアム世代の活用という面からすれば、採用すべき組織形態です。また、IT技術の進化にともない、個々人の情報共有が容易になったことで、統制システムにも変化が生じています。つまり、階層化の必要性が薄れてきたわけです。もっとも、階層化には処遇面も関わっていますが、これはまた別な問題となります。

近年のフラット組織を理論面から支えているのが、”ホラクラシー経営”や”ティール組織”だと思われます。ホラクラシー経営とは、大雑把に言えば、組織階層を無くし、意思決定をトップダウン型から分散型に転換することです。誠に聞こえは良いのですが、多くの前提条件が必要だと思われます。特に、組織を構成するメンバー全員が、等しく高いモラールとスキルを持っていることが、最低限、求められます。スタート・アップの創業者グループには適合するのでしょうが、普遍性には欠けます。組織の統制システムが持つ全体主義的な傾向を排除し、多様性を尊重し、民主的な経営を実現しようということなのでしょうが、理想論のように聞こえます。

ティール組織は、過去からの組織形態を色で定義し、現在、求められている組織を”Teal"、”鴨の羽色”組織と定義しています。声の大きい人が率いる組織が”Red”、役割分担が明確になり階層化されると”Amber”、硬直化した階層の弊害を能力主義で解消する”Orenge”、より一層個人の多様性を活かす”Green”、そしてメンバー同士が共鳴し合いながら一つの生命体のように機能する”Teal”となります。ここでも、やはり大前提が求められています。セルフ・マネジメント(自己管理)、ホールネス(個人の全体評価)、エヴォリューショナリィ・パーパス(進化する目的)の3つだと言われます。これまた、理想論に過ぎ、あたかもユートピアを語っているようでもあります。

いずれも完璧に近い個人を前提とする理想論です。ただ、DX(デジタル・トランスフォーメイション)という未知の領域における組織のあり方に、全体ではなく、個人という視点から挑んでいる点は理解できます。ネットが全てのインターミディアリを否定する以上、そのアプローチは、極めて正鵠を得ていると思います。個人と組織という問題は、組織の誕生とともに発生した古いテーマです。それに、IT技術が、新しい光を与えるであろうことは明確です。ただし、現実的には、組織そのものを否定するのではなく、あくまでも統制システムにフォーカスして、来るべき組織像を考えるべきなのでしょう。スタート・アップの失敗例は、その良い材料になるはずです。(写真:F.ラルー「ティール組織」出典:amazon.co.jp)

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