LuLaRoeは、2012年、スティダム夫妻によって設立されました。派手な色使いとパターンを特徴とする女性用のカジュアル衣料を販売し、2014年に発売したレギンスが成功したことから、MLMビジネスを本格化します。MLMは、高額な商品を売りますが、LuLaRoeは安価なアパレルという気軽さ、エントリーのしやすさが特徴です。「家に居ながら、5万~10万ドルの年収」というキャッチ・コピーが主婦層にささり、コンサルタントと呼ばれるLuLaRoeの販売代理店は、わずか3年で10万人以上に膨れあがります。LuLaRoeは、急速な成長に、経営が追いつかず、混乱を生み出し、結果、ネズミ講を疑われてもやむを得ない状況に陥り、多くの被害者を出しました。LuLaRoeは、レギンスをMLMに乗せることで成功し、かつ自らの首を絞めたわけです。
コンサルタントは、5~9千ドル分の在庫を一括して買い取り、倍の価格で、販売します。同時に、新たなコンサルタントの募集も行い、チームを作ることが推奨されます。階層化が進むと、会社から、チーム全体の発注額に応じたボーナスが支給されます。初期に参加したコンサルタントは、月3万ドル以上のボーナスを獲得していたと言います。一方、全体の平均ボーナスは、年間で500ドル程度でした。MLMの典型的な特徴でもあります。ド派手なセミナーやコンベンション、あるいはSNSを通じて、コンサルタントは異常なほど前向きなマインドを植え付けられていきます。アメリカの伝統的な経営手法ですが、MLMの場合、宗教的とも言える巧妙なマインド・コントロールと言えます。ちなみに、マーク・スティダムは、熱心なモルモン教徒です。
コンサルタントは、ホーム・パーティやSNSを使って商品を販売します。リクルートにもSNSが多用されます。LuLaRoeの爆発的成功は、SNSの賜物と言っていいと思います。SNSが、MLMに新たなリスクをもたらしたとも言えます。あまりの過熱ぶりに、生産は追いつかず、倉庫の外まで在庫が置かれ、商品の品質、カスタマー・サービスは劣化の一途をたどります。地方によっては、コンサルタントが過剰となり、2017年、ついにLuLaRoeのMLMは、逆回転を始めます。周囲はコンサルタントだらけとなり、借金して仕入れた在庫は売れず、新規の募集もできず、結局、借金だけが残ります。辞めるときには在庫を買い取るという契約時の約束も反故にされます。全米で、LuLaRoeに対する訴訟が始まり、州当局による捜査も始まります。
LuLaRoe事件の問題点は、参加を希望した主婦層の多さであり、特に地方の主婦層の置かれた厳しい現状なのだと思います。その背景には、白人中間層の没落、格差の固定化、子育てのために働けない主婦層、結果、膨らんでいく借金という地方の現実がありました。ドナルド・トランプが人気を集めた背景と同じです。LuLaRoeのコンサルタントは、ほぼ平均年収世帯の白人女性だけだったようです。LuLaRoeは、厳しい現状から抜け出し、かつての生活を取り戻したいという切実な夢を売っていたとも言えます。州当局とも罰金で和解したLuLaRoeは、規模は大幅に縮小したものの、現在も同じビジネスを続けています。経済的に厳しい没落世帯がある限り、やや危ないものも含めてMLMビジネスがなくなることはないのでしょう。(写真出典:scarymommy.com)