監督:アダム・マッケイ 原題:Don't Look Up 2021年アメリカ
☆☆+
まずはキャストの豪華さに驚きです。ジェニファー・ローレンスとレオナルド・ディカプリオを並べたうえで、メリル・ストリープ、ケイト・ブランシェット、マーク・ライランスをからませます。ここまでオスカー俳優を並べられると、見てみようかという気にもなります。さらにタイラー・ペリー、ジョナ・ヒル、ロン・パールマンで脇を固め、アリアナ・グランデ、ティモシー・シャラメで若い人々にもアピールしています。他にも、ラッパー、コメディアン、TVアンカーなど有名人をちりばめています。まるで昔の東宝や松竹のお正月映画のようです。製作費のほとんどが、ギャラに使われたのではないでしょうか。監督のアダム・マッケイは、明らかに、スタンリー・キューブリックの「博士の異常なる愛情」を意識していると思います。コメディ専門の監督にとって、「博士の異常なる愛情」は、あこがれ以上の存在であり、一度は挑戦してみたい、と思うものなのでしょう。政治家批判、SNS批判、マスコミ批判を展開し、かつ現代的で、スタイリッシュな仕上げを狙ったものと思われます。画面は、スティーブン・ソダーバーグを意識したところもあります。ところが、結果的に、どれもこれも中途半端で、かつ全体は冗長になってしまいました。ジェニファー・ローレンスは、孤軍奮闘、映画のレベルを維持しています。さすがの存在感だと思います。他の名優たちは、それぞれ勝手に演技を楽しんでいるような印象です。
TV界出身のアダム・マッケイですが、コメディ中心に映画を撮ってきました。さすが「サタデー・ナイト・ライブ」を仕切った人だけに、笑いのツボは心得ています。ただ、あくまでもウケ狙いの傾向が強く、いまひとつ映画になりきらない面があります。2018年の「バイス」などでは、作風に多少の変化を感じましたが、本作では元に戻った感じです。TVの枠内なら、それで済むのでしょうが、映画になると、筋の通ったテーマを中心にドラマを展開させないと、成立しない世界なのだと思います。そこそこ楽しめるのですが、テーマが絞りきれず、映画の売りだった豪華キャストも、逆に、この映画の弱点になっているように思われます。
マーク・ライランスが演じるのは、GAFAの創業者たちをひとまとめにしたような人物です。膨大な資産と影響力で政府を牛耳っているという設定です。日頃は、宗教めいた話をしていますが、実際のところは、地球よりも人類よりもビジネス最優先という人物であり、巨大IT系企業を皮肉っています。最近、IT系創業者たちの宇宙愛が加熱気味ですが、そのことを話題にしただけで、深掘りが足りません。まるでドリフターズのコントのようです。TVのニュース番組の司会者を演じたケイト・ブランシェットとタイラー・ペリーは、見事にアメリカのニュース番組を再現することで、しっかり皮肉を効かせています。
名優たちや人気者を集めたことで、多少グレードアップしたものの、やはり、いつものアダム・マッケイ映画でした。ラスト・シーンの混乱も、象徴的です。移住先の星のシーンで終わればいいものを、置き去りにされた大統領の息子が地球で一人生き残るというラストを加えています。意味不明です。皮肉な結果で面白いよね、というだけの発想だったように思えます。テーマが明確で、テーマへのこだわりがあれば、このようなラストはあり得ないはずです。(写真出典:theriver.jp)