2021年12月27日月曜日

「キングスマン:ファースト・エージェント」

監督: マシュー・ヴォーン 原題:The King's Man   2021年イギリス・アメリカ

☆☆☆+

2015年に始まったキングスマン・シリーズの3作目になります。大英帝国の誇り、紳士へのこだわり、初期の007が持っていたおしゃれ感とコミカルさ、今風の暴力シーン、それらをスタイリッシュに仕上げた人気シリーズです。ロンドンのサヴィル・ロウに店を構える高級テーラー「キングスマン」を本拠地とする独立諜報機関の物語です。サヴィル・ロウは、高級テーラー街として知られ、日本語の”背広”の語源にもなりました。まさに古き良き大英帝国の誇りです。3作目は、第一次世界大戦を背景としたキングスマン誕生の物語です。歴史上の人物や事件を巧みに配置したオリジナル・ストーリーが、結構楽しめます。

監督のマシュー・ヴォーンは、才能も豊かなのでしょうが、いわゆる“持ってる男”だと思います。27歳の時、 ガイ・リッチー監督と組んで制作した「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」が世界的にバカ当たりし、一躍大金持ちになります。同じコンビで政策した「スナッチ」もヒット、2004年には「レイヤー・ケーキ」で監督デビュー、以降の作品も、概ねヒットしています。エンターテイメントに徹した作風が、観客受けします。今回は、スタイリッシュなスタイル、テンポの良さ、派手なアクションはそのままに、多少コミカルな面を抑えつつ、英国のプライドに訴える作品に仕上がっています。恐らく右翼的との批判も出てくるのでしょう。

それにしても、ロシアの怪僧ラスプーチンの人気は衰えませんね。グレゴリー・ラスプーチンは、いずれの宗派にも属さない修行僧であり、怪しげな治療と性的な魅力を武器に、帝政ロシア末期、ロマノフ朝を手玉にとった怪僧です。1916年に、ロシア貴族たちに暗殺されています。青酸カリ入りの食事を平らげても平然としていたため、ピストルで撃たれますが、また立ち上がり、今度は背後から撃たれ、それでも立ち上がったと言います。最後は、額への銃弾で死んだようです。映画でも、その有名なエピソードが利用されています。また、当時から、ラスプーチン暗殺は英国情報部の仕業という噂もあったようです。

戦争の主役たる英国国王、ドイツ帝国皇帝、ロシア皇帝、そしてアメリカ大統領の4人は、コミカルに描かれており、キングスマンらしさが出ていました。国王と皇帝たちは、親戚関係にあり、幼少期の人間関係が笑えました。実際のジョージ5世とニコライ皇帝も、よく似ており、血筋を感じさせます。子供の頃、3人が一緒に遊んだかどうかは知りませんが、ありそうな話です。また、キッチナー、レーニン、マタ・ハリ、デュポン等々、実在の人間も面白おかしく登場しています。実在の人物を使いながら、既知の歴史とは異なるストーリーを創作することは、とても楽しい遊びです。その最大の魅力は、ひねりにひねった作り話が、どれだけ多くの史実をカバーし、かつ事実と符合しているか、ということになります。そういう視点から見れば、今回の創作ストーリーは、60点くらいの出来でしょうか。

最大のマイナス・ポイントは、スコットランドの愛国者を悪役にしたことだと思います。近年のスコットランドの独立機運が背景にあるのでしょうが、面白味に欠けるきらいがあります。とは言え、十分に楽しめる映画です。やや詰め込みすぎで長い映画になったことはマイナスだったと思いますが、理屈抜きで楽しめる映画は、実に貴重な存在だと思います。マシュー・ヴォーンには、是非、キングスマン・シリーズを続けてもらいたいものだと思います。(写真出典:20thcenturystudios.jp)

マクア渓谷