さすがに、理解しました、私とそっくりな不良がいることを。”千歳”とは、千歳市にある北海少年院のことだと思われます。勘違いさせておくのも面白いな、と思いましたが、会話が成立しないので、別人だと打ち明けました。そのうえで、私によく似た人の話を聞こうとしましたが、話してもらえませんでした。結構ヤバい奴だったのではないか、と思います。髪型も変わる等、見た目が変わったせいか、その後は、その不良に間違えられることはありませんでした。世の中には、自分とそっくりな人間が3人いる、と言われます。遺伝子の組み合わせは限られているので、同じ民族であれば、似たような顔つきの人は存在して当然なのだそうです。
そっくりさんの話も、他人のそら似程度ならいいのですが、ドッペルゲンガーとなると、やや薄気味悪い話になります。ドッペルはダブル、ゲンガーは行く人、歩く人を意味するドイツ語です。日本では「二重身」と呼ばれます。医学的には「自己像幻視」という症状であり、自分にそっくりな人間を見る幻覚だとされます。精神分裂病の症状の一つとされますが、極端に疲れた場合にも起こり得る精神不全の症状とも言われるようです。日本では、芥川龍之介の”自分を見た”という話が有名です。ただ、本人の幻視ではなく、複数の他人も目撃する場合があり、これはもう超常現象の域に入ります。最も有名なのは、1845年からラトヴィア北東部で発生したフランス人教師エミリー・サジェのケースです。
当時、32歳だったエミリー・サジェは、ラトヴィアのリヴォニアにあるノイベルケ寄宿学校に赴任します。同校は、上流社会の子女が集まる名門校であり、エミリーも有能と認められ採用されたようです。赴任して程なく、生徒の間で、エミリー先生が二人いるという噂が立ちます。授業中、板書するエミリーが二つに分かれる、あるいは食事中のエミリーの背後にもう一人のエミリーが立つ様を生徒が目撃します。ある日、教室の窓から花壇で作業するエミリーが見え、同時に教壇にも立っているという現象を全生徒が目撃します。騒ぎを聞いて駆けつけた他の教師が、教壇のエミリーに触ると、実体が無かったそうです。気味の悪さに退学する生徒が増え、ついにエミリーは解雇されます。エミリーは、同じ理由で、18回も退職を余儀なくされていました。
この現象は、バイロケーション、一身二ヶ所存在とも呼ばれ、エミリーだけではなく、古くは、古代ギリシャの数学者ピタゴラス、修道会の創始者である大アントニオスはじめ、いくつかの例が記録されているようです。マスヒステリアの一種としての集団幻視ではないか、とも言われているようです。ただ、エミリーの場合、宗教的体験というわけではなく、しかも目撃者の多さ、回数の多さからして、集団幻視とも思えません。科学が解明できていないことは数多くありますが、その最たるものが人間なのではないかと思い知らされます。(写真:エミリー・サジェとされる写真 出典:pinterest,jp)