さる地方都市の市長と話した際、俺はふるさと納税に反対だ、と市長は言っていました。その市では、市長のせめてもの抵抗として、物品ではなくイベント参加権だけを返礼にしていました。市長の言いたいことは、実によく分かります。流出分は、住民税を他の自治体に取られる。流入分は、寄付収入増ながら、半分ほどが返礼品やプロモーション経費で支出されるという仕組みです。国全体としてみれば、徴収すべき、法に定められた税を、役所が自ら減らすという奇妙な仕組みです。一方、納税側からすれば、事実上の減税です。ただ、活用しなければ、欲しい返礼品がなければ、減税にならないという不公平な仕組みであり、かつ、所得が多いほど寄付控除上限も大きくなるという不公平もあります。減税ならば、こんな仕組みを使わず、直接的に減税すればよい、とも思います。
ここまでブームが過熱すると、自治体も、やらなきゃ損、ということになります。ちなみに、上述の市でも、その後、住民の意見に押され、名産物を返礼品に加えるようになりました。ふるさと納税には、地場産業を振興する、あるいは特産品をPRするという面で、一定の効果があります。ただ、それも特定の産品だけに限定した効果ということになり、ここにも不公平が生じます。恐らく、特産品の取扱業者の選定にも、不公平感は生まれているのでしょう。そもそも、各自治体も、人気の特産品があるかどうかで、寄付額に大きな格差が生じるという不公平さもあります。本当に補助を必要とする自治体に寄付が回るとも限りません。結局、安定的に潤っているのは、サイト等の運営に関わる業者、そして配送会社だけだとも思えます。
ふるさと納税の本来的なねらいは、大都市圏に集中する住民税の一部を、地方にも分配しようというものです。そもそも地方振興のための税の配分システムならば、地方交付税という仕組みが既に存在しています。多くの人口を抱え、地方に比べて、大きな支出が求められる大都市側では、ふるさと納税の流出額が大きくなれば、行政サービスの低下も避けられません。そこで、地方交付税対象自治体については、流出額の75%を国が補填する仕組みもあります。ならば、ふるさと納税などやらずに、その補填財源を地方交付税に上乗せして、支援が必要な自治体に回せば済むのではないでしょうか。返礼品を、ありがたく頂戴しておきながら言うのも如何なものかとは思いますが、とにもかくにも摩訶不思議な制度と言わざるを得ません。
2020年度のふるさと納税の総額は、約6,724億円に達しています。うち返礼品や運営費用として約半分の3,300億円が消えているはずです。また、流出側への75%の補填が、約5,000億円。つまり、ふるさと納税がなければ、国全体としては、8,300億円が浮くわけです。優秀な官僚の皆さんも分かっているはずです。とすれば、ふるさと納税のメリットは、別な所にあるのではないでしょうか。例えば、自治体や政治家が、交付税の増額を要求してきた場合、官僚は「ふるさと納税で稼いでいるところもありますよ。おたく、努力が足りないんじゃないですか?」と言えます。これは切り返しとしては、なかなかのものです。配分という世界に、一部自由競争を組み込み、分捕り合戦をさせることで、配分を抑え込む、という仕組みにも見えます。もちろん、下衆の勘繰りってやつですけど。(写真出典:newsweekjapan.jp)