洸庭 |
本堂の前には、日本最大級の枯山水と言われる無明院庭園が広がります。足立美術館の庭で知られる中根金作の作庭です。広大な回遊式庭園である賞心庭は、中根金作の息子である中根史郎が作庭しています。谷間の地形を活かした庭には、長く大きな池、絶妙に配置された木々、茶室等の建築が点在し、どこをとっても絵になる庭園です。ちょうど色づき始めた木々が、山の斜面に見事なグラデーションを作り、池の水面に映りこむ様は、極楽浄土を想起させるものがありました。また、本堂に隣接する荘厳堂には、臨済宗中興の祖といわれる正宗国師白隠の禅画コレクションが展示されています。
洸庭は、屋根がこけら葺になっており、ちょうど屋根をひっくり返したような下部構造を持ちます。それが柱で支えられ、宙に浮いた舟のように見えます。上も下もこけら葺ですが、上部は雨風にあたり変色し、同じ素材ながら二色構造になっています。それが、また舟のイメージを強めます。恐らく施主の造船業を意識したものなのでしょう。舟の周囲は、海に見立てた石の庭が広がり、その奥には、中根史郎が作庭した庭園が配置されています。残念ながら、内部はメンテナンス中ということで、見学できませんでしたが、中央に水を配したギャラリーになっているとのことです。
庭園には、千利休の一畳台目の茶室を復元した「一来亭」、表千家の残月亭・不審庵を再現した「秀路軒」、滋賀の永源寺から移築した「含空院」等があり、お茶とお菓子をいただくことも出来ます。また「五観堂」では臨済宗の僧堂と同じ湯だめうどんが食べられます。驚いたことに、結構な造りの浴室があり、天然温泉に入浴することもできます。この日の男風呂は岩湯と呼ばれる露天風呂でした。立派な竹林に囲まれた露天風呂は、誠に気持ちが良く、いつまでも浸かっていたくなりました。お参りし、散策し、白隠を鑑賞し、お茶をいただき、お湯にも浸かり、アッと言う間の4時間でした。
境内には、国際禅道場等もありますが、いずれの施設にも、キチンと人が配置され、庭のメンテナンスも、この上ないほど見事にされておりました。施設の建造費のみならず、メンテナンス費用も膨大なものになるだろうと思われます。ただ、福山の人にもあまり知られていず、日頃の参観者も数えるほどで、しかも傘下の寺があるわけでもなく、収入は限られていると思います。ここからは、下衆の勘繰りですが、恐らく常石グループから、毎年、相当な額の寄付があり、また要員の派遣もあって、運営されているのだと思います。常石グループにとっては、海難事故犠牲者の弔いという社会的貢献、建築と庭による文化的貢献、そして節税効果も大きい、と良いこと尽くめなのでしょう。ちなみに、隣接する広大な総合レジャー施設「みろくの里」も常石グループの運営です。(写真出典:christinayan01.jp)