永谷園の先祖である永谷宗円は、17世紀に揉み工程の入る煎茶の製法を確立した人と言われます。ただ、煎茶の栽培法は、宇治の茶農家のあいだで試行錯誤が続けられ、宗円以前に生み出されたもののようです。宗円の名が今に残るのは、宇治茶を江戸に持ち込み、山本嘉兵衛とともに、煎茶のマーケティングに成功したからだそうです。ちなみに、山本嘉兵衛の末裔が山本山です。その後、宗円の末裔たちは、製茶業を続けてきましたが、1952年、10代目が「お茶づけ海苔」を開発します。日本のインスタント食品のはしりとも言われ、大ロングセラーとなります。お茶づけ海苔は、発明というよりも、既に存在したインスタント素材を組み合わせた商品と言われます。永谷家は、なかなか商売に長けた家柄と言えます。
永谷園には、もう一つロングセラー商品があります。ちらし寿司の素「すし太郎」です。1977年に発売されています。広島、岡山でのテスト販売の後、関西で発売し、大ヒットとなりました。生魚を使う江戸前のちらし寿司は明治期以降のものですが、いわゆる五目ちらしは、鎌倉時代に誕生しているようです。あえて五目ちらしの本場からテスト・マーケティングを開始するあたりは見事なものです。また、北島三郎をCMに長く起用したこともヒットの要因でした。永谷園は、CM名人でもあります。大相撲のスポンサーとしても、よく知られています。本場所で、永谷園の懸賞旗を見ない日はありません。NHKの相撲中継では、懸賞旗が回り始めると、ロング・ショットに切り替えます。ただ、遠目にも、永谷園の歌舞伎カラーの懸賞旗は、すぐにそれと分かります。
さて、話は、松茸に戻りますが、松茸は、きのこの王様と言われます。確かに、香りの良さ、季節感、希少価値は、王様と言えます。ただ、今一つ、納得できないものがあります。味、香り、出汁の出具合、値段といった総合力では、椎茸の方が、はるかに上をいきます。椎茸こそが王様だと思います。世界三大きのこは、トリュフ、ポルチーニ、松茸とも言われますが、高級だから入れたという無理矢理感があります。ここは、やはり椎茸が入ってこそしっくりきます。私が、これまで食べたきのこで、最も感動したのは、天然の舞茸です。初めて食べたトリュフ、ポルチーニに匹敵します。そういう意味では舞茸を、三大きのこに入れたいところですが、総合力では、やはり椎茸です。
近年、インスタントではない、本物の松茸の吸い物をいただく機会は、ほぼ無くなりました。松茸の汁物としては、いまや土瓶蒸しが大定番となり、多くの和食店や居酒屋でさえも出します。様々な具材が入って美味しいのですが、松茸の香りを楽しむのなら、吸い物の方が適していると思います。香りの薄い輸入松茸が増えたので、土瓶蒸しにして誤魔化さざるを得ないのでしょう。実は、天然舞茸で感動したのも、吸い物でした。きのこを楽しむためには、焼くのもいいですが、吸い物の方がドンピシャかも知れません。(写真出典:nagatanien.co.jp)