監督:ケヴィン・マクドナルド 2021年アメリカ・イギリス
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アメリカ同時多発テロ直後に連行され、14年間、グアンタナモ収容キャンプに拘束されたモーリタニア人モハメドゥ・オールド・サラヒの回想録に基づいた実話映画です。アメリカ政府と軍が、グアンタナモで行ったことは批判されるべきものに違いありませんが、その映画化は、とても難しい取り組みだと言えます。映画は、サラヒ本人、弁護士、海兵隊検事の3つの視点から構成されています。残念ながら、それが散漫な印象につながり、監督の凡庸な演出もあって、残念な出来上がりになりました。ただ、辛うじて映画として成り立っているのは、弁護士を演じたジョディ・フォスター、そしてサラヒを演じたタハール・ラヒムの名演に依るところが極めて大きいと思います。収容所のあったグアンタナモ湾海軍基地は、キューバ島の南東部にあります。1898年、米西戦争に勝利したアメリカは、キューバを保護国化します。1902年、キューバはスペインから独立し、アメリカは、グアンタナモ湾を永久租借します。以来、キューバ、アメリカ、いずれの法律も適用されず、海軍法だけが支配する土地として存続してきました。一時期、難民収容所としても利用されました。2001年に、同時多発テロが発生すると、ブッシュ政権は、拷問や不法拘留を禁じるアメリカ国内法が適用されないグアンタナモに、テロ容疑者の収容キャンプを開設します。
イラク戦争が始まると、収容者は急増し、250人以上になった時期もあるようです。いかなる法の支配も受けないとはいえ、拷問と長期拘留は、人権問題として、国際社会の注目を浴びます。オバマ大統領は、就任直後から閉鎖を表明しますが、共和党と軍に阻まれ、在任中に実現することはできませんでした。バイデン大統領も、閉鎖の意向を明かにしていますが、現時点では、動きはありません。軍は、釈放後、テロリストに戻った者がいることを盾に取っています。実際、タリバン政権中枢には、2名のグアンタナモ経験者がいます。しかし、約20年間で起訴に至った収容者は、わずか8名に過ぎません。
アカデミー主演女優賞2回受賞の大女優ジョディ・フォスターも、58歳になりました。「タクシー・ドライバー」(1976)で世界を驚かしてから、45年になります。今回、ジョディ・フォスターは、新たな次元を見せてくれていると思います。単に、実際の年齢に応じた役柄を演じたと言うに留まらず、この年齢でなければだせなかったであろう新たな魅力や存在感を示したと言えます。これからのジョディー・フォスターは、かなり楽しみだと思います。海兵隊検事約で、ベネディクト・カンバーバッチも出演していますが、ぼやけた脚本と演出がために、やや損な役回りになっていました。いずれにしても、もうちょっとやりようがあったのではないか、と思わせる映画でした。(写真出典:eiga.com)