2021年11月30日火曜日

梁盤秘抄#19 Synchronicity

アルバム名:Synchronicity(1983)                                                                      アーティスト名:The Police

ポリスのデビュー・アルバム「アウトランドス・ダムール」(1978)がリリースされた頃、私は、ジャズばかり聞いており、たまにソウル系を聞くことはあっても、ロック、特にイギリスのロックなど、何の興味もありませんでした。それが、たまたま同アルバムからのシングル・カット「ロクサーヌ」を聞く機会があり、その新しさに驚きました。以降、何となく程度ですが、ポリスの曲はフォローしていました。1985年にリリースされたSynchronicityには、やられたと思い、すぐ購入しました。そこにはポリスが提示してきた新しいファクターの極致とも言えるサウンドが詰まっていたからです。そして、これがポリスのラスト・アルバムにもなりました。

ポリスのアルバムとしては、最大のヒットとなり、シングル・カットされた「Every Breath You Take (邦題:見つめていたい)」も、記録的ヒットを飛ばします。この時点で、ポリスは、史上最も売れたバンドの一つになりました。6つのグラミー賞を獲得し、ロックの殿堂入りも果たしています。また、5枚のアルバム中、4つまでが、ローリング・ストーン誌のベスト・アルバム500にランクインしています。まさにブリティッシュ・ロック史上、ビートルズやストーンズに並ぶバンドになったわけです。しかし、人気絶頂にあったポリスは、1986年に解散します。才能あふれる3人のエゴがぶつかり合ったためだといわれています。

ポリスの音楽の新しさは、ロックにレゲエを持ち込んだことだと言われます。ポリスは、パンク・バンドとしてスタートしていますが、レゲエやジャズのエッセンスをも包括したサウンドは、パンクを超えていたと思います。ただ、新しい音楽を創造するという精神は、確かにパンク的とも言え、また、それこそブリティッシュ・ロックの伝統とも言えそうです。ポリスの音楽をリードしたのは、作詞作曲も担当し、特徴的なヴォーカルを聞かせるスティングということになります。しかし、3人の極めてレベルの高い演奏技術も、当時の他のバンドをはるかに超えていたと思います。

ポリスはリズムのバンドだと思っています。彼らの音楽を特徴づけていたものは、スチュワート・コープランドのドラムだと思います。バス・ドラムでオフ・ビートを刻む事や高い音のスネアといったユニークな奏法もさることながら、メロディアスなドラムと言えるほど、多彩なリズムと音を出していた唯一無二のドラマーだと思います。アンソニー・ウィリアムス等と並ぶドラムの天才の一人だと言えます。スティングの甲高い声、センス抜群のベース、アンディ・サマーズのキレのいいギターも、コープランドのドラムゆえに活きたと思います。Synchronicityでは、”Walking in Your Footsteps”のポリリズムはじめ、コープランドのドラムが全体のトーンをリードしています。

コープランドのソロ・アルバム「リズマティスト」(1985)は、アフリカで収集したサウンドをサンプリングし、独特の世界を打ち出していました。名盤だと思いますし、私は、このアルバム以降、西アフリカ音楽に興味を持つようになりました。ポリス解散後のコープランドは、様々なミュージシャンとコラボしたり、映画音楽を手がけたり、ポリスのドキュメンタリー映画を監督したり、と多彩に活躍しているようです。2008年、ポリスが再結成され、東京ドームでのライブに行くことができました。私は、ひたすらコープランドのドラムに集中して聞きましたが、相変わらず色彩豊かなドラミングを披露していました。(写真出典:amazon.co.jp)

マクア渓谷