2021年10月30日土曜日

「DUNE」

監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ    2021年アメリカ

 ☆☆☆+

「DUNE」は、1965年、フランク・ハーバートによって発表されたベストセラーSFです。同年にはネビュラ賞、翌年にはヒューゴー賞も獲得した傑作です。ただ、その文学的アプローチやかなりの長編であることから、すぐに売れたわけではありません。あまりにも壮大なスケールゆえ、映像化は困難とされていました。70年代には、アレハンドロ・ホドロフスキーが挑戦して挫折、1984年にはデビッド・リンチが映画化しますが、どうしようもない駄作でした。デビッド・リンチは、製作会社の締め付けを言い訳にしています。そんなわけで、「DUNE」と聞いただけで、大丈夫かい、と思ってしまいます。

結果、心配は、外れたとも、当たっていたとも、言えそうです。まずは、映像、音響、音楽が素晴らしいと思います。絵コンテ段階から、かなりしっかりと作り込まれていることがよく分かります。伝説のSFの映像化、という点では優等生レベルだと思います。ストーリー展開についても、よく出来た脚本であり、無理がないと思います。本作は、Part1とされており、やはり1本の映画という枠には収まっていません。十分に劇的盛り上がりも計算されてはいますが、やはり中途半端感は残ります。例えば、3部作といったアプローチも考えられますが、そうなると、原作に相当手を加えざる得ないことになります。これがDUNE映画化の難しさの一つなのでしょう。

また、DUNEは、その独特な世界観がゆえに、シークエンスの展開が難しくなります。要は、画面展開が、どうしても説明的にならざるを得ないわけです。特に前半では、ドラマ性が弱く、見事な映像も、やや紙芝居的になっています。例えば、スターウォーズでは、オープニングスクロールとして”a long time ago in a galaxy far far away”と、物語のフレームを文字で提示してしまいます。うまいやり方であり、説明的なシークエンス展開を省き、いきなりドラマに入れます。ところが、DUNEの独特な世界では、それをやることは極めて難しく、やるとすれば、とてつも長く複雑な代物になってしまいます。皆、オープニングの最中に席を立つこと間違いありません。

DUNEのウェザリングは、かなり意識的に抑えられているように思います。それは、DUNEの持つ神話性や宗教性を保つために、計算された工夫なのだと考えます。スターウォーズの見事なウェザリングは、リアルさゆえに冒険活劇への没入を促していました。DUNEは、単なる活劇ではありません。宗教的でもある”ベネ・ゲセリット”の世界観の物語です。ベネ・ゲセリットを説明することは、極めて困難です。それがDUNEの映画化にとって、大きなハードルになっています。ごく単純化して言えば、特殊な能力も持つ女性たちによって、延々と継承されてきた人類救済計画であり、なかば宗教的存在です、主人公ポール・アトレイデスの母親レディ・ジェシカは、ベネ・ゲセリットのメンバーであり、ポールにベネ・ゲセリットの訓練を施します。ポールは、ベネ・ゲセリットが待ち望んだ救世主であることが示唆されています。

ベネ・ゲセリットの物語を、Part2で完結できるのか、という心配もあります。実は、その前に心配すべきは、本当にPart2は制作されるのか、ということです。決してスターウォーズのように、分かりやすく、一般受けする作品ではありません。今回は、劇場公開とともにHBOでも配信されています。それが吉と出るか、凶と出るか、微妙なところです。一定以上の興行成績を稼げれば、シリーズ化もあり得ます。なにせ、DUNEシリーズは、全6作出版されていますから。(写真出典:warnerbros.cp.jp)

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