米国空軍司令の暴走によって核戦争勃発の危機が起こります。危機は、なんとか回避されたものの、予期せぬ事態によって世界は破滅へと向かいます。ラスト・シーンは、特に有名です。核実験の実写映像が多数流れ、バックには第二次大戦初期にヒットした「また会いましょう(We'll Meet Again)」が流されます。ピーター・セラーズは、博士、英国軍大佐、米国大統領の3役をこなしています。Dr.ストレンジラブは、ナチス下で核開発していた物理学者ですが、大統領を総統と呼び間違えるなど、戦争と科学という難しい問題を体現しています。モデルとされたのは、ナチスのV2ロケットの開発者でアメリカに亡命したフォン・ブラウン博士です。また、終始、強硬論を唱える将軍は、原爆投下、東京大空襲を指揮した「皆殺しのルメイ」ことカーティス・ルメイ将軍がモデルとされます。
核戦争の論理は、恐ろしいほど単純なものです。相手が核ミサイル打てば、こっちも打つ。よって、相手は打てなくなる。保有する核爆弾が多いほど、抑止力が効く。これが米ソで起きたエスカレートの構造です。事故が起きないように様々な安全策が講じられていても、偶発的なミサイル発射の懸念は拭えず、東西冷戦下にあった世界は、地球破滅の懸念に怯えました。朝鮮戦争では、マッカーサー将軍が核の使用を申請し、トルーマン大統領によって拒否されています。キューバ危機は、米ソによる核戦争の一歩手前まで行っています。また、1983年には、ソヴィエトの警戒システムが米国のミサイル発射を捉え、核戦争が起きて当然という状況が生まれます。当直将校であったペトロフ中佐が、コンピューターの誤作動を確信し、定められた手順を無視したことで、地球の滅亡は回避されました。
ちなみに、ペトロフ中佐は、手順を遵守しなかったことで左遷され、早期退職後、神経衰弱を患います。ただ、2006年に至り、米国を訪れた中佐は、国連等で「世界を救った男」として表彰を受けています。60年代末からのデタント(緊張緩和)、数次に渡る戦略兵器削減条約、ソヴィエトの崩壊等によって、一発即発的状況は緩和されました。安定化したとは言え、核戦争の危機が消滅したわけではありません。2021年には、国連による包括的な核兵器禁止条約も発効しています。ただ、核保有国とその同盟国は批准していません。日本も批准していません。唯一の戦争被爆国が、批准していないことは、まったく情けないとしか言いようがありません。日本はアメリカの核の傘に守られている、という言い方は、既に古色蒼然たる印象があります。他の大量破壊兵器とともに、国際法上禁止すべきタイミングだと思います。
東日本大震災における福島第一原発事故以降、原子力発電廃絶の声も高まっています。事故発生時の影響の大きさを考えれば、当然と言えます。ただ、世界の人口増加や中国の経済発展に伴い、世界の電力消費はうなぎ登りです。電力供給は、依然として6割超を石炭・石油などの炭素燃料に頼り、地球温暖化を進行させています。原子力は、電力の約1割を担っていますが、欧米での依存率が特に高くなっています。これを即刻廃止すれば、世界経済は破綻します。現実的な選択としては、効率は悪いものの風力・太陽光等の代替エネルギー化を進めつつ、一方で科学技術の粋を総動員して原発の安全性を高めていくしかありません。(写真出典:sonypictures.jp)