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ジョハリの窓 |
ワシントン政界の奥の院で暗躍した右派エリートですが、話が理屈っぽく、難解であることでも有名でした。特に有名になったのは、イラク戦争開戦の理由とされた大量破壊兵器が、イラクで発見されなかった際、記者会見で行った回答です。記者たちの追及を受けラムズフェルドは「知ってのとおり、知られていると知られていること、つまり知っていると知っていることがある。知られていないと知られていることがあることも我々は知っている。言ってみれば、我々は知らない何かがあるということを知っている。しかし、知られていないと知られていないこと、つまり、我々が知らないと知らないこともある」と言ってのけます。
この”known knowns”、ないしは”unknown unknowns”発言は、世界中で大きな反響を呼びます。回答になっていない、ひどいごまかし、何を言っているのか全く不明、自作の詩なのではないか、英語を話せなくなったのではないか、老齢ゆえボケたのではないか等々、大騒ぎになりました。しかし、世界中の人事部経験者たちは、何を言わんとしているのか、即座に理解したはずです。もちろん、大量破壊兵器が見つからなかったことに対する直接的回答ではありませんが、”known knowns”発言のベースになっているのは「ジョハリの窓」の四分割図です。1955年にアメリカで発表された円滑なコミュニケーション能力を獲得するためのツールです。
上下左右に四分割されたジョハリの窓は、左上を「開放の窓(自分も他人も知っている自己)」、右上を「盲点の窓(自分は知らないが、他人は知っている自己)」、左下を「秘密の窓(自分は知っているが、他人は知らない自己)」、そして右下は「未知の窓(自分も他人も知らない自己)」と定義します。要するに、この四分割を意識し、左上の「開放の窓」を大きくしていく努力を行えば、自ずとコミュケーションは円滑に行えるというわけです。人事教育上、最も基本的なテーマの一つであり、聞いたことがあるという人も多いのではないでしょうか。ラムズフェルドは、ジョハリの窓を口頭で説明しただけです。大量破壊兵器の存在を「未知の窓」に例えたのでしょうが、記者を煙に巻くための話法に過ぎません。
2001年9月11日に起こった同時多発テロの衝撃は、今でも忘れません。ペンタゴンで執務中だったラムズフェルドも九死に一生を得、女性職員を救出したことも知られています。テロ発生から数時間後、まだ状況すら完全に把握されていない段階で、ラムズフェルドは、既にイラク戦争を計画していたと言われます。即座に生贄が必要だと思ったのか、湾岸の石油を抑えるチャンスと思ったのか、イラン・イラク戦争で支援し、ある意味、自らが作り上げた疫病神サダム・フセインを潰す絶好の機会と思ったのか、多くの説が語られています。真実は「秘密の窓」の中にあるはずです。決してラムズフェルドが匂わせた「未知の窓」の中ではないと思います。(写真出典:benkan.co.jp)