デルヴォ―は、ベルギーのリエージュ州に、弁護士の息子ととして生まれています。ブリュッセル王立美術アカデミーで絵画を学び、デ・キリコやルネ・マグリットの影響を受け、シュールレアリスムに傾倒していきます。デルヴォ―は、マグリットと双璧を成すベルギーのシュールレアリストと言われますが、むしろマニエリスム的な幻想作家と呼ぶのがふさわしいと思います。わき目もふらずに独自の道を進んだシュールレアリストであり、結果的にマニエリスムに近い画風にたどり着いた人のように思います。
マニエリスムは、イタリア語の様式を表す”マニエラ”を語源とします。いわゆる”マンネリ”の語源でもあります。マニエリスムは、ギリシャ・ローマという古典の理想美を追求したルネサンスに対して、より主観的で、人工的な作風であり、ある意味、ルネサンスの逆張りとも言えます。ラファエロやティントレットの後期の作品もマニエリスムとされることもあります。ドイツやネーデルランドでもルネサンスは起こりますが、イタリアとは異なり、より宗教的で、より自然主義的でした。 北方マニエリスムも、その流れを汲む独特のものだったと言われます。
個人的な印象としては、北方の画家たちは、ヤン・ファン・エイク以降、ゴシックから発展した独自の写実的な世界を展開しており、古典ベースのイタリア・ルネサンスとは、明らかに異なります。マニエリスムの影響も受けたのかもしれませんが、 北方の画家たちの作風は、もともとマニエリスム的だったと思えます。クラナッハ親子も、デューラーも、皆、ファン・エイクにつながっているように思えます。実は、デルヴォーの作風も、シュルレアリスム運動のなかで生まれたというよりも、北方絵画の伝統をより現代的に表現しているように思えます。デルヴォーを、ファン・エイクの後継者だと言えば、言い過ぎでしょうか。
夢の中では、場面、状況、ストーリー等が、どんどん変わっていくことが、ままあります。ところが、 それは、とてもスムーズに展開していきます。私も、驚くことも、戸惑うこともなく、全てを受け入れていきます。 夢の中では、驚きだけではなく、他の感情的起伏も、ほぼないようにも思えます。デルヴォーの絵に、必ずと言っていいほど登場する女性たちは、大きく虚ろな目をしています。クラナッハの女性たちも、同じような目をしています。その目が、私に夢の世界を思い出させます。この虚ろさは、何なのだろうと思ってしまいます。(写真出典:tallengestore.com)