2021年7月5日月曜日

「ゴジラvsコング」

監督:アダム・ウィンガード        2021年アメリカ

☆☆☆ー

リアルなCG、斬新なアングル、スピード感ある展開、ダイナミックな音響、そしてファイト・シーンたっぷりと、現代的な映像として、よく出来ていると思います。ただ、ドラマとしてはお寒い限りです。地下世界、親子、少女とコング、といったお決まりの設定ですが、ただの飾りになっていました。むしろ、ドラマ性を犠牲にしても、スピード感あふれる映像に仕上げたかったのでしょう。欧米では、2020年11月の公開予定が、コロナ感染の広がりで、2021年3月公開となりましたが、ヒットを記録しています。映画館の再開と重なり、映画に飢えた観客が押し寄せたのでしょう。家族や友人と、ポップコーンを抱え、声を出しながら、大画面で映画を楽しみたい人たちのためには、ピッタリの映画と言えます。

ゴジラ映画としては、36作目になるようです。1954年の第1作は、今、見ても楽しめます。登場前の不気味さ、逃げまどう人々、ランドマークの破壊、あおるカメラ・アングル、自衛隊出動時の音楽はじめ、その後の特撮怪獣映画の定番となる演出が詰め込まれていました。しかし、最大の特徴は、単なる娯楽映画ではなかったことだと思います。ゴジラは、水爆実験によって生み出されました。人類の傲慢さが人類を恐怖にさらす、あるいは人類の身勝手さに自然が逆襲する、という文明批判に貫かれたテーマのシリアスさがありました。唯一の被爆国としてのメッセージが込められていたわけです。それが映画を色褪せないものにしている面があります。

ゴジラ対キングコングという対決は、今回が初めてではありません。1962年、東宝が「キングコング対ゴジラ」を製作しています。遅かれ早かれ、対決せざるを得ない両雄でしたが、原案は、アメリカから持ち込まれました。原案は”コング対フランケンシュタイン”でしたが、資金が集まらず、対戦相手をゴジラに替えて東宝に持ち込まれました。力道山のプロレスのように、何やら日米対決的な面もあり、大ヒットします。海外でも公開されています。この作品以降、ゴジラの文明批判的な位置付けは薄れ、エンターテイメント性が高くなります。その後、しばらく、ゴジラは、人類の味方として活躍します。歴代怪獣の中で、最強と言われた宇宙怪獣キングギドラの襲来は、 人類最大の危機でした。しかし、ゴジラが死力を尽くして戦い、これを撃退、人類を守りました。 

今回、メカゴジラまで登場したのには驚きました。本作の正しいタイトルは「ゴジラ&コングvsメカゴジラ」なのでしょう。「ロボ・ゴジラか?」に対して「いや、メカゴジラだ」というセリフには、頬が緩みました。あまり人気のなかったメカゴジラですが、現代風になると、なかなかのものでした。秀逸だと思ったのは、キングギドラとの合体という発想です。ゴジラ映画の流れを変えたのは、庵野秀明の「シン・ゴジラ」(2016)でした。キングギドラの頭蓋骨のなかからメカゴジラを操縦するという設定は、庵野のエヴァンゲリオンを彷彿とさせます。ひょっとすると、ウィンガード監督が庵野に捧げたオマージュなのかも知れません。庵野は「シン・メカゴジラ」を撮るべきではないか、とも思います。

地球空洞説は、大昔から大人気の話でした。神話や小説をあげれば、キリがないほどです。現代の科学では完全に否定されていますが、かつては科学者たちも仮説を提示していました。ハレ―彗星で知られる17世紀の天文学者エドモンド・ハレ―、オイラーの公式で知られる18世紀の数学者レオンハルト・オイラー等がよく知られています。また、19世紀のアメリカで出版されたシムズの同心円理論は特に有名で、多くの小説のインスピレーションともなっています。本作でも、地下世界への入り口は南極にありますが、シムズが唱えた説が根拠なのでしょう。地球空洞説では、地下世界の重力が重要なテーマとなります。本作でも、何の説明もありませんが、重力と反重力が、うまく取り込まれています。(写真出典:theater.toho.co.jp)

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