2021年7月4日日曜日

排骨拉麺

万世麺店有楽町店の排骨拉麺を、40年以上、食べ続けています。豚のスペアリブを薄めにスライスし、衣をつけて揚げた排骨が、うまい出汁のラーメンに乗っています。「肉の万世」は、電気部品の販売を行っていた創業者が、ドッジ・ライン不況のあおりを受け、1949年に開業しました。当初は、コロッケの店だったようですが、今や、ステーキやカツサンドといったメニューで知られ、牛の顔のロゴで関東各地にチェーン展開しています。万世橋のたもとにそびえる万世ビルは、秋葉原のランドマークでもあります。その万世が、麺店を開いたのが、1966年のことでした。毎日、大量に出る豚骨や鶏ガラを活用する狙いがありました。その1号店が、今も続く有楽町ビル地下の有楽町店でした。

もちろん、排骨が一番の売りですが、モチモチの自家製麺もなかなかのものです。ただ、万世麺店最大の魅力はスープだと思います。惜しげもなく投入された豚骨や鶏ガラから出されるスープは独特のコクがあり、中毒性が高いと思っています。私の記憶では、長い万世麺店の歴史のなかで、3度ばかり、大きく味が変っています。恐らく時代に合わせて塩分を抑えてきたのだと思います。ただ、独特のスープのコクだけは、キッチリ保たれてきました。トッピングの排骨には、通常の排骨と脂身の少ない特選排骨の2種類があり、若いころの私の定番は、特選排骨2枚乗せ、いわゆる”特ダブ”でした。これを食べると、働き盛りでも、夕方まで空腹を感じることはありませんでした。麺の大盛もあり、”洗面器”と呼ばれていました。また、排骨、手羽先のから揚げ、叉焼をトッピングする”全部乗せ”というメニューもありました。

万世麺店有楽町店は、昔からカウンターのみです。昔は、出っ張りが3~4つある変形コの字カウンターでした。昼時ともなると、近隣のサラリーマンが押しかけ、大混雑でした。自動券売機もなく、順番も関係なく、食べている客の後ろについて、席が空くのを待つというスタイル。店内は、戦場に近いカオス状態でした。要は、食べ終わりそうな客を探し、その後ろに付くというのが常道ですが、食べるスピードには個人差があります。上策は、早食いタイプを見抜くことです。食べ終わりそうでも、食べるスピードが遅く、時間のかかる人もいるわけです。食べた後、ゆっくり水を飲み、席で爪楊枝を使いだす客もいて、そんな客には、後ろから厳しい視線が降り注ぎます。食べてる間も、常に後ろからのプレッシャーを感じるので、皆、無言で排骨拉麺と格闘していました。

食べる速さには個人差があります。持論ですが、営業現場の経験がある連中は、大体、早飯です。”早飯早糞芸のうち”という高度成長期らしい言葉までありましたが、さすがに、今は死語でしょう。万世麺店有楽町店の殺気立った昼時は、まさに高度成長期を象徴する光景でした。女性客を見ることは、ほぼありませんでした。ごくごく稀に職場の女性を連れた男性客もいました。その女性が、小指でも立ててお上品に食べようものなら、敵意むき出しの厳しい視線が集まり、危険な空気すら漂ったものです。印象的には、90年代以降、女性同士の客も増えてきたように思います。味が変わったのは、この頃だったと思います。男の戦場にも平和が訪れ、店も女性を意識した味に変えていったということなのでしょう。

40歳代まで、万世の排骨拉麺は、二日酔いの特効薬だと信じていました。もちろん、科学的根拠などありません。水分補給が必要だっただけなのかも知れません。ただ、熱いスープにたっぷりのラー油と黒コショウをかけて特選排骨を食べれば、大量の汗が噴出します。この汗が二日酔いを癒すと信じていました。もう、二日酔いするほど飲むこともありませんが、今でも月に一度くらいは、特選排骨麺を食べています。もちろん、一枚ですが。(写真出典:niku-mansei.com)

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