監督: ロバート・エガース 2019年アメリカ
☆☆☆☆
傑作ホラーと評判の高い作品です。35ミリ白黒カメラで撮った、ほぼ正方形に近い画面なので、日本の映画館で上映することは難しいとされていたようです。実際、スクリーン設定ができず、画面の両端がぼやけたままでの上映となっていました。また、これを単にホラー映画と呼ぶのも、いささか躊躇します。確かに、ホラーとしての要素はあるものの、神話的、哲学的、心理学的アスペクトも色濃く、単なるホラーとも呼べないように思います。では、何か、と問われると、なかなか答えが思いつかないユニークなエンターテイメントだと思います。映画は、当初、エドガー・アラン・ポ―の未完の小説「灯台」の映画化という発想からスタートし、その過程で知った”スモールズ灯台の悲劇”と呼ばれる事件にインスパイアされたようです。1801年、ウェールズ沖合の岩礁に立つスモールズ灯台に、仲の悪い二人の灯台守が勤務します。一人が不慮の事故で死ぬと、自分の犯行と疑われることを恐れた灯台守は、遺体を海に捨てませんでした。悪天候が続き、交代要員が来れない状態が続き、灯台守は、腐乱した遺体とともに仕事を続けます。助け出された時、灯台守は、既に発狂していました。以降、灯台守は3名で勤務するようになったと言います。
映画は、白黒の正方形画面に加え、冒頭から、不気味な霧笛の音とおどろおどろしい音楽で、クラシックなゴシック・ホラー感を高めています。船乗り由来の海の神話や伝承が”白鯨”的な味付けをし、スカトロも含めた心理学的要素もちりばめられます。二人の灯台守の葛藤のドラマですが、片目のカモメが重要な要素を担い、かつ効果的に使われてます。大自然の象徴なのかもしれません。若い灯台守の名前に関する伏線も効いています。スモールズ灯台の悲劇の二人も同じファースト・ネームでした。これがヒントになったのでしょう。
主演二人の演技は鬼気迫るものがあります。二人芝居と言えば、ジョーゼフ・L・マンキーウィッツ監督の「スルース」を思い出しますが、今回はミステリと違って、着地点が見えないだけに、一層、二人の演技のレベルの高さが求められたと思います。しかしながら、二人の演技力、様々な道具立て、それらに増して、監督の演出が見事だったと思います。最も高く評価すべきは、本格的ゴシック・ホラーを作り上げたこと以上に、それを、あくまでも上質なエンターテイメントとして実現している点だと思います。
本作は、ロバート・エガースの第2作にあたります。監督デビューとなったホラー映画「ウィッチ」(2016)も、高く評価され、大ヒットしています。17世紀のニューイングランドを舞台に、入植民一家の惨劇を、端正な画面と文法で描いていました。間違いなく、これからの映画界を背負う監督の一人だと思います。また、製作配給の「A24」は、NY拠点の独立系の会社ですが、今、エガースの他に「ミッドサマー」の奇才アリ・アスター等も抱え、波に乗っていると言えます。しばらくは映画界に大きな変化をもたらす台風の目であり続けるのでしょう。(写真出典:eiga.com)