監督:アレハンドラ・マルケス・アベーラ 2018年メキシコ
☆☆+
「トロントはじめ多くの国際映画祭で絶賛され、メキシコ・アカデミー賞で13部門ノミネート、4部門を受賞」まではいいのですが、昨年夏の日本公開に際しては「アルフォンソ・キュアロン監督の『ROMA/ローマ』から10年後のメキシコ」とか、「社会派映画」といった宣伝文が並び、さほど期待もしていない作品ながら、「ROMA/ローマ」につられて見ました。すっかりやられました。1982年のメキシコ債務危機が背景となっていますが、政治をえぐるわけでも、貧富の格差問題に切り込むでもなく、ひたすら女性のマウンティングに関する物語でした。アレハンドラ・マルケス・アベーラ監督は、メキシコの女流監督です。これが2作目とのことですが、いいセンスと腕の良さを感じさせます。良い脚本と出会えば、期待できる人かも知れません。原題は"Las Ninas Bien(良い娘たち)"。上流階級に生まれ、上流階級の妻としてのほほんと暮らす女性たちを、皮肉ったタイトルなのでしょう。高級住宅街の邸宅と高級スポーツ・クラブに生息し、パーティとファッションと噂話が全ての生活が描かれます。その中で、女王様的存在の主人公が、債務危機のあおりを受けて、没落するという物語です。
本来的にはコメディに仕立てるべき素材だと思えます。それを、コメディでもシリアスでもなく、客観的、中立的に提示する昨今流行のスタイルで撮っているように見えます。そのアプローチは、まさにキュアロンの「ROMA/ローマ」的ですが、そこに少し無理があるように思えます。例えば、時代を感じさせる肩パッドの使い方等も典型です。上流社会の象徴として使われていますが、本来、喜劇的な小物だと思います。監督は、これを喜劇的に扱わない努力をしており、結果、中途半端になっています。
70年代の二度に渡るオイル・ショックに、新たな油田の発見もあり、メキシコは石油ブームに沸きます。オイル・マネーを背景に政府借款を積み上げ、民間企業も海外からの融資を増加させました。81年に石油価格の暴落が始まると、メキシコの財政は破綻、ペソは暴落します。借款や融資を争うように実行してきた外国銀行は、一切の追加融資を拒否。主人公の夫の経営する企業も、まさに海外融資を得られずに破綻します。主人公のライバルである成金女の夫は金融ブローカーという設定であり、金融の時代への変化が示唆されています。
落ちぶれた主人公と夫は、ライバルの成金金融ブローカーの助けで、職を得ます。金融ブローカー夫妻との会食の際に、主人公は、化粧室で肩パッドを外します。そして、金融ブローカーに色目を使います。上流社会が、プライドを捨てて、新たな成長ビジネスに愁眉をおくる、というわけです。監督は、メキシコの上流階級は、社会の寄生虫だと言いたいのかも知れません。”良い娘(こ)たち”というタイトルは、ここで効いてくるわけです。(写真出典:movies.yahoo.co.jp)