2021年6月17日木曜日

エイジング・ビーフ

Smith & Wollensky
 NYへ赴任した直後、アメリカの保険会社の連中が、”Smith & Wollensky”で歓迎会をしてくれました。NYを代表するこのステーキハウスは、ランドマーク的存在でもあり、いくつかの映画にも登場しています。彼らは「ここのステーキは、クリスピーでジューシーで最高だ」と話していました。外側は香ばしく焼き、内側は肉汁たっぷり、というわけですが、味そのものについては、一切語っていません。平均的アメリカ人の味覚細胞は、日本人より3割少ないという話も聞いたことがあります。多少うなずける面もあります。ちなみに、”Smith & Wollensky”には、その後、何度も行く機会がありました。私は、その都度、出てこないのは承知で「ソイ・ソース(醤油)はないか」と聞き続けました。最後には、ついにソイ・ソースが出てくるようになりました。多少は、私の貢献もあったのではないかと自負しています。

NYには、ステーキの老舗や名店が多くあります。老舗では、ポーターハウス、キーンズ、デルモニコ、ギャラガーズ、ストリップ・ハウス、スパークス等々あります。また名店としては、なんといってもブルックリンのピーター・ルーガーということになります。熟成肉と言えばピーター・ルーガーであり、NYのナンバー・ワン・ステーキと言えばピーター・ルーガーです。そこで修行した人たちが開いたウォルフギャング、ベンジャミン、ベン&ジャックス等も大人気です。人気のメニューは、やはりTボーン・ステーキということになります。アルファベットのTに似た腰椎の両側にサーロインとテンダーロインという異なる肉がついています。テンダーロインが多いカットは、ポーターハウスと呼ばれます。カットの特性から大振りなステーキになります。

熟成、エイジングとは、肉のタンパク質を数週間かけてアミノ酸に変化させる工程です。うま味が増し、肉質が柔らかくなります。ただ、重量は60~70%程度まで減ることになります。ピーター・ルーガーはじめ、多くのステーキ店が行っているのがドライ・エイジングです。温度、湿度、通風といった管理が難しく、経験や技が必要とされてきましたが、近年は、各要素を自動管理する熟成庫が普及しているようです。一方、ウェット・エイジングも存在し、いわゆるチルド肉は、一定程度熟成された状態になっています。ただ、狙いすました熟成度合ではなく、結果的な熟成に過ぎません。魚にも熟成はあり、和食店等では魚の種類に応じて熟成をかけてきました。最近は、血抜きの技術が普及し、魚も、容易に熟成できるようになったようです。

強火で焼き上げた熟成肉の、香ばしくうま味の強いステーキも好きですが、もう一つ、私の好物があります。ロースト・プライム・リブです。最高ランクのプライム・リブに、じっくり火を入れたものです。好きなサイズにカットできる店もありますが、1ポンドくらいが標準です。ロースト・ビーフと言えばそれまでですが、英国風のせせこましいものとは、肉が違います。厚さが違います。NYでは、国連近くのパーム・トゥのロースト・プライム・リブが好きでした。他に飲み食いしなければ、今でも1ポンドはいけると思います。ただし、残り1/3になったところで、醤油が欲しいところです。なぜか日本には、ロースト・プライム・リブを扱う店がありません。唯一、LAから進出している専門店ローリイズで、ナパのロバート・モンダヴィと共に、本格的なロースト・プライム・リブが食べられます。

ウォルフギャングも日本に進出しています。六本木店に始まり、大阪、福岡も含め5店舗を展開中です。有名なホノルル店でファンになった人が多いようです。とても美味しい熟成肉が食べられますが、なかなか予約が取れないという難点があります。ベンジャミンも六本木に進出済ですが、なんと、2021年9月には、本家本元のピーター・ルーガーが恵比寿に店を出す予定です。恐らく、数か月先まで予約が入らない状態になることでしょう。(写真出典:de.wikipadia.org)

マクア渓谷