2021年5月8日土曜日

クンブ・メーラ

2019年クンブ・メーラ
カサブランカからマラケッシュへバスで向かう時のことです。道の両側には、乾燥地帯が広がり、白壁の農家が点在していました。たまに、カラフルな色で文字や下手な絵が壁に描かれた家が出てきます。特徴的だったのは、必ず飛行機の絵が描いてあることでした。ガイドに聞くと、ハッジ、つまりメッカへの巡礼を行った者が、その道中を描く風習があるとのこと。ハッジは、イスラム五行の一つであり、一生に一度は行なうことが義務づけられています。とは言え、お金も暇も必要なことゆえ、ハッジを行った者は、自慢でもあり、尊敬もされるということでした。イスラム暦12の月、メッカのカアバ神殿は、300万人と言われる巡礼者で埋め尽くされます。異様な光景には宗教の力を感じさせられます。

しかし、300万人が少人数に思える宗教行事があります。インドで行われるヒンドゥー教の祭クンブ・メーラです。数千万人が聖地に集まり、2ヵ月に渡り、沐浴を行います。参加者数は、到底把握できないので、空撮して推計されます。2019年、ウッタル・プラデーシュ州のイラーハーバートで行われた際には、1億3千万人と記録されました。巡礼者の簡易テントだけでも、NYのマンハッタン島と同じ面積だったと聞きます。間違いなく、地球上最大の宗教イベントです。クンブ・メーラは、3年に一度、4つの聖地で順番に開催されます。各々の聖地では12年毎の開催となります。他にも、小規模なクンブ・メーラも開催されます。小規模といっても、1,000万人は下らないようですが。

クンブは、水瓶を意味し、メーラは祭りです。祭りの起源は、ヒンドゥーの天地創造神話「乳海攪拌」にあります。ヴィシュヌ神とアスラ(悪鬼)が協力して乳海を千年間攪拌し、そこから太陽や月をはじめとする自然、そして多くの神々が生み出されます。最後に、ダヌヴァンタリ神が、不老不死の霊薬アムリタの入った水瓶を持って現れます。その際、4滴のアムリタが地上に零れ落ちます。それがクンブ・メーラが行われる4つの聖地となりました。罪を洗い清めるとされる沐浴ですが、クンブ・メーラでの沐浴は、10年分に相当するそうです。ヒンドゥーでは、ガンジス川の水は聖水とされます。インドへ行った際、インド人ガイドから興味深い話を聞きました。自分は、西洋教育を受け、迷信は一切信じないタイプだが、10年前にワーラーナシ―で自ら汲んだガンジスの水が、いまだに腐らないことに驚いている、とのことでした。

インドのコロナ・ウィルス感染が止まりません。1日当たりの感染者数は40万人、死者は3千人を超えています。生産国ながらワクチンも足りません。医療は完全に崩壊し、重症者用の酸素ボンベは奪い合いになっています。変異株の影響と言われます。ただ、この4月、州議会選挙とクンブ・メーラが行われています。開催を許可したモディ政権への批判が高まっています。インドの選挙は熱狂的なことで知られます。人口13.5億人のインドでは、州といえども人口は1~2億人となります。州議会選挙といっても、大騒ぎの規模が違います。コロナ・ウィルス感染防止を理由に、選挙やクンブ・メーラを、延期、あるいは中止すれば、とんでもない大騒ぎになることは間違いありません。下手すれば政府は崩壊しかねません。

そういう意味では、恐らくモディ首相の政治家としての判断は妥当だったのでしょう。しかし、コロナ禍にあって、国のリーダーは国民の命を預かっています。どれほど厳しく批判されようとも、国民の命を守る覚悟が必要だと思います。ニュージーランドは、わずかな感染が確認されただけで、ロックダウンに踏み切り、結果、コロナとの戦いに勝利しました。アーダーン首相の勇気ある決断に賞賛が集まっています。翻って、日本政府の現状を見れば、実に情けないことになっています。極めて難しい判断が求められる時には、何を最終目的とすべきか、何を最優先とするべきか、ここが明確、かつブレないことが最も重要になります。(写真出典:afpbb.com) 

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