2021年5月21日金曜日

山火事

30年以上前、初めてロスアンゼルスへ行った時のことです。ちょうど週末が重なったもので、日系人や駐在員のゴルフ・コンペに誘われ、参加しました。ダウンタウンから西へ1時間ばかり行ったところにある真っ平なコースでした。コースの名前は憶えていません。何番ホールかのティー・グランドに立った時、信じがたい光景が目に入りました。コースの真正面、隣接する裸山の斜面が燃えているのです。間近に火事など見た経験が無かったので、腰を抜かしました。私が「火事だ!」と叫ぶと、同伴プレイヤー諸氏は「ああ、LAではよくあるんだよ」と言いながらプレイを続けます。炎は、瞬く間に斜面を駆け上り、山頂へと近づいていきます。あたふたする私をしり目に、平然とプレイを続行するLAの人々にも驚きました。

ほどなくして、大型のプロペラ機が飛来し、オレンジ色の消火剤を巻き始めました。遠目には、その分量が頼りなげにしか見えず、到底、効果があるようには思えませんでした。地上からの消火活動は、気配すらありませんでした。飛行機は、その後、何度か飛来していましたが、結局、鎮火することはありませんでした。パーティも終わって、帰るころには、すべて焼き尽くしたのか、火の手は見えなくなっていました。ホテルに戻り、ローカル・ニュースをチェックしましたが、一切、山火事に関する報道はありませんでした。”よくあること”だったわけです。夜は、日系人会が主催するチャリティ・ショーを見に行きました。しかし、何を見ても、何を聞いても、昼に見た山火事が瞼から消えることはありませんでした。

カリフォルニアは、基本的には乾燥した土地ですが、秋から冬にかけては雨のシーズンとなります。それが、近年、雨期にも雨が降らない状況が続いていることから、山火事が頻発し、かつ巨大化しています。山火事の原因は、自然発火、人間の不注意等、様々です。アメリカの場合、7月4日の独立記念日の後、花火が引火して山火事が発生しがちとも聞きます。また、雨が降らないと、数か月前の山火事の火種が地中の根に残り、しぶとく火の手をあげることもあるようです。山火事は、厄災とばかりは言えない面もあり、人為的に火を入れる焼畑や野焼きも行われてきました。また、自然界には、火事をトリガーに発芽する植物も存在しているそうです。

映画「オンリー・ザ・ブレイブ」(2017) は、ハリウッド伝統の消防士ものですが、よくできた実話ものでもありました。アメリカには、ホットショットと呼ばれる山火事専門の消防部隊があります。2013年にアリゾナで発生したヤーネル・ヒル火災は、19名のの消防士が犠牲となった史上最悪の山火事でした。その消火活動の最前線で活躍したホットショットを描いた映画です。山火事の消火には、放水の他に、防火帯を作り、可燃物を排除する方法があります。さらに映画でも描かれていた火を使った消火方法もあります。単に、可燃物を焼いて防火帯を作るだけでなく、バック・ファイア、あるいは迎え火によって、山火事の延焼方向を変える方法があります。ただ、失敗すると延焼を拡大するというリスクがあり、地形、気象条件、火の勢い等を総合的に勘案し、慎重に実行する必要があります。熟達の専門家が必要になるわけです。

今年も、山火事シーズンがやってきます。近年では、住宅火災も含めた山火事の直接的被害に加え、煙が持たらす都市部での被害も多く発生しています。同時多発的な山火事に囲まれた街が、数日間に渡り、オレンジ色の濃い煙に襲われます。視界が悪くなるだけではなく、有害な物質も多く含まれるようです。雨以外の根本的な予防策は難しいのでしょうが、防火帯として燃焼しにくい樹木を植林する試みも始まっているようです。(写真出典:kpax.com)

マクア渓谷