黒パンとは、ライ麦パンのなかで、全粒粉など精製度の低い粉を使い、黒く焼きあがったパンです。小麦に比べ、発酵させてもあまり膨らまず、固い焼き上がりになります。また、発酵には、イースト菌ではなく、サワードウを使うので、独特の酸味があります。しかし、この酸味と固さゆえに日持ちするという特徴もあります。欧州北部で食べられますが、酸っぱさと固さが貧しい食べ物という印象を与えます。ライ麦と小麦を混ぜ、なおかつライ麦の比率が低いライブレッドなら、日本にもあります。しかし、本格的な黒パンは、日本人にとってはハードルが高すぎるのか、パン屋で見かけることはありませんでした。父も、かなり探したようですが、なかなか見つからず、私にも指示が飛んだわけです。
虎ノ門あたりの小さなパン屋で、偶然、本格的な黒パンを見つけたが、場所が判然としないので探せ、と父に言われたことがあります。虎ノ門界隈のパン屋をかなり回りましたが、ついに見つけられませんでした。ドイツから輸入したライ麦100%のロッケンブロートを見つけたことがあります。これはさすがに高評価を得ましたが、上品にすぎる、と言われました。シベリア旅行の際、本物の黒パンは食べたのか、と父に聞くと、近いものはあったとの答えでした。それはそうです。戦後すぐのシベリアで、捕虜同然の元日本兵に食べさせる黒パンなど、恐ろしく粗末な代物だったに違いありません。結果的に、沢山、ライブレッドを食べた私も、黒パン好きになっていったように思います。最近美味しいと思うのは、札幌の「ブルクベーカリー」の”ブルクライヤー”です。黒パンではなく、小麦とライ麦の配分が絶妙なライブレッドです。
終戦直後、満州にいた元日本兵57万人がシベリアへ連行され、極寒の地で強制労働させられました。きつい労働に加え、劣悪な環境と食事がもとで約1割が亡くなりました。シベリア抑留は、スターリンによる明らかな犯罪行為であり、明らかなポツダム宣言違反です。ソヴィエト、およびロシアは、戦闘中の捕虜との強弁を続けていますが、スターリンが命令を発したのは8月23日であり、日本兵の武装解除後のことです。1956年の日ソ共同宣言によって、抑留の損害賠償も、未払いとなっていた賃金も、一切の請求権が放棄されました。2010年に至り、日本政府は、シベリア特措法を定め、生存している抑留者約7万人に対し、一人当たり平均28万円を一時金として支給しました。また、1993年に来日したロシアのエリツイン大統領は、シベリア抑留を非人道的行為として陳謝しています。とは言え、スターリンの大罪は、いまだ清算されていません。
貧しい食べ物といった印象の強い黒パンですが、近年の健康ブームのなかで、見直されているようです。小麦のパンよりも低カロリーで、かつ栄養素が多く含まれています。固いので咀嚼回数が増え、健康に良いだけでなく、満腹感が増すとも言われます。また、低GI食品であり、血糖値を上げにくいことも評価されています。さらに、ライ麦はグルテンが作られにくいので、ライブレッドは、グルテン・フリー、あるいは低グルテン食品でもあります。(写真出典:mydeliciousmeal.com)