チリは、南米の優等生と言われます。銅や硝石といった鉱物資源、アンチョビやワイン等の農水産物の輸出で、一人当たりGDP等は、南米の上位に位置します。ただ、南米各国と同様の歴史を経て、政治の不安定さはありますし、貧富の格差も存在します。それでもチリが優等生である最大の理由は、大規模土地所有の少なさだと思われます。つまり、他国に比べ、プランテーションには不向きな土地柄であったことが、他の南米各国との違いを生んでいると思います。南米の格差社会、あるいは腐敗政治やネポティズムの背景には、大規模土地所有が温存されてきたことがあります。19世紀には革命や独立も起こりましたが、欧州の民主化の波を食い止めるために富裕層が行ったものでした。商業資本の蓄積による市民革命も起こらず、産業革命による産業資本の進展も限定的、あるいは、それすらも大規模土地所有者が独占してきました。
左翼運動も起こりましたし、左派政権も誕生してきましたが、政権が左右いずれであっても、国の経済を握るのは一部富裕層であり、遅かれ早かれ、政治の腐敗が進み、結果、格差解消には至りませんでした。また、アルゼンチンのペロンやベネズエラのチャベスのようなポピュリストも登場しますが、所詮付け焼刃のバラマキ政策は、根本的解決どころか、経済を悪化させるだけでした。東南アジア各国が、経済発展を続け、格差を解消しつつあることと好対照を成します。中南米も似たような国が多いのですが、南米各国は、世界の歴史とは全く異なる道を歩み、富裕層が自らを利するように政治や社会をコントロールし、古い秩序を保ってきたのだと思います。諸外国は、自らの利益のために、それを利用してきました。アメリカが主導したとも言えるチリ・クーデターは、その極端な例なのでしょう。
アジェンデは、今も高い人気を保っているようです。ただ、アジェンデも、ある意味、ポピュリストでした。農地改革を行ったことは高く評価すべきですが、経済的にはボロボロでした。替わって軍事独裁を布いたピノチェトは、左翼の徹底弾圧を行う一方、経済政策としては、ネオ・リベラリズムを教科書的に展開し、これまた大失敗しています。軍事独裁は90年まで続きました。民政移管後は、左右拮抗するなかではありますが、主に中道左派が政権を握り、経済も成長してきました。ただ、命綱の輸出に陰りが見えはじめると、再び貧富の差は拡大します。2018年には、右派政権が誕生し、右傾化が進みました。2019年、公共交通機関の値上げに端を発し、大規模な反政府デモが起きました。コロナ・ウィルスの感染対策で小康状態にありますが、問題が解決したわけではありません。
世界的にも貧富の差が拡大する傾向にあるようです。グローバル化、IT化といった産業構造の転換に伴うものなのでしょう。経済格差の拡大は、経済全体の縮小をもたらす懸念があります。とは言え、まだ、機会均等までは失われていないと思います。南米では、それすらも十分ではありませんでした。思えば、南米は、20世紀中に、格差解消に向けた道筋をつけておくべきだったと思います。それを阻んだのは、富裕層の狡猾さだけではありません。利害関係を有する諸外国も、間接的には関わっていたとしか言いようがありません。(movies.yahoo.co.jp)