2021年5月14日金曜日

トルネード


 「オズの魔法使い」は、アメリカで最も親しまれている児童文学です。今だに本が売れ続け、ジュディ・ガーランド主演の1939年の映画も、その主題歌「虹の彼方に(Over The Rainbow)」も、人気が衰えません。アメリカ人が、オズを好む理由は、ファンタジーの傑作であることに加え、歴史の浅いアメリカで、その風土が織り込まれた初めてのおとぎ話だったからでもあります。舞台はカンザス州の田舎町、農家に育った少女が主人公であり、トルネードに巻き込まれることからファンタジーが始まります。実にアメリカ的であり、いずれも身近な設定だったわけです。

世界で発生するトルネードの約8割は、アメリカ中西部で起こる、と聞いたことがあります。ロッキー山脈とアパラチア山脈に挟まれた大平原地帯は、メキシコ湾から北上する暖気とカナディアン・ロッキーから南下する冷気が出会い、スーパーセルと呼ばれる巨大積乱雲が発生しやすい場所となっています。そのスーパーセルが、時としてトルネードを発生させます。中西部は、まさにトルネードの通り道であり、トルネード回廊と言えます。毎年5~6月は、中西部のストーム・シーズンです。この時期の中西部への出張は、なかなか難儀なものでした。フライトがキャンセルになったり、長く待たされたり、着陸空港が変更になったりしたものです。どこの空港も、右往左往する人たちでごった返していました。

一度、トルネードに襲われた直後の町に行ったことがあります。シカゴ近郊の小さな町でした。もともと予定されていた出張でしたが、2~3日前にトルネードが直撃。被害にあった木造住宅は、残骸の一部を残して消え去り、小学校のコンクリートですら崩され、犠牲者も出ていました。とにかく、その破壊力のすごさには驚きました。トルネードが破壊するのは、その通り道に存在するものだけです。しかもトルネードは、タッチ・ダウンしたポイントだけを完全に破壊し、それ以外には、さほど大きな被害を与えません。青々とした畑には、丸くえぐられたタッチ・ダウン跡が、トルネードの通り道に沿って、点々と続いていました。また、跡形もなく破壊された家の隣には、ほぼ無傷のままの家が残っています。運不運と言えば、それまでですが、なんともやるせない状況です。

トルネードには、解明されていないことが多くあるようです。いつ発生するかも知れず、発生すれば危険すぎてデータを収集できないからだと言われます。トルネードを追いかけるストーム・チェイサーと呼ばれる人たちは、その威容に魅せられているだけでなく、謎が多いからこそ、追い続けているのでしょう。不明ことが多いと言っても、アメリカは、世界で唯一、トルネードの警報体制を持っています。しかし、警報は直前にしか出せません。常日頃、警戒を怠らない住民たちは、警報が出されると、即座に地下室に逃げ込みます。唯一安全が確保できる場所だからです。それが間に合わない場合には、バスタブに入って、身をかがめろ、と言われます。ある程度の重さがあり、鉄製のパイプがつながっているからです。実際、バスタブで命拾いした例も多いようです。

近年、日本でも竜巻被害が増えています。温暖化の影響なのでしょう。特に北関東では、しばしば発生しています。アメリカほど巨大化しないとは言え、その破壊力はあなどれません。しかし、日本には、地下室のある家は、ほとんどありません。北関東一円では、大きな犠牲が出る前に、行政による補助等も検討し、地下室の設置を進めていくべきではないかと思います。(写真:2018年ワイオミング州で発生したトルネード 出典:earthreview.net)

マクア渓谷