2021年4月12日月曜日

梁盤秘抄 #15 A Seat at the Table

アルバム名:A Seat at the Table (2016)                     アーティスト名:ソランジュ

"A Seat at the Table"は、ソランジュの大ヒット・アルバムです。自身の3枚目のアルバムですが、初めてチャート第1位を獲得しました。同じ年、姉ビヨンセの"Lemonade"も第1位になったことから、同じ年に姉妹でチャート第1位を獲得した初めてのケースとなりました。反人種差別というスタンスは明確ながら、楽曲自体は、ソランジュの多様なバックグランドが反映された斬新のものでした。ずっと聞いていたくなるような心地良さすら感じます。十分にソウルらしさを保ちながら、ネオ・ソウルの新しい流れを感じさせます。

 ソランジュは、音楽一家に生まれました。13歳の時には、ビヨンセが所属したデスティニーズ・チャイルドのツアーに同行し、メンバーの一人が怪我をした際には、代役まで勤めています。また、作詞・作曲も開始し、プロへの楽曲提供まで行っています。14歳でシングル・デビュー、17歳で出したアルバム”Solo Star”は、ヒットを記録しています。まさに早熟の天才です。その後、音楽活動よりも、女優としての活躍が続きます。20歳で、姉に楽曲を提供したことをきっかけに、再び、音楽活動を開始しました。彼女の楽曲は、R&Bを基本としながらも、ジャズやブルースの要素もあり、それらをモダンにまとめあげている印象があります。歌手、作曲家、女優、モデル等、クロス・オーバーに活躍するソランジュ自身を反映しているようでもあります。

ネオ・ソウルは、定義もあいまい、ジャンルとしても確立していません。私は、結構、好きなジャンルです。モータウンの本質的な部分は残しつつ、伝統的なシャウト・スタイル、あるいはヒットの法則に満ちた定型的アレンジに関しては、もっと自由な表現を試しているのが、ネオ・ソウルだと思っています。そういう意味では、このアルバムなど、まさに典型だと思います。また、ネオ・ソウルの元祖マーヴィン・ゲイのアプローチとも異なる、都会的で、知的で、今日的なソウルだと思います。ネオ・ソウルというと必ず名前があがるエリカ・バトゥの油抜きしたような歌い方とも異なり、ファルセットをうまく使いながら、洗練された新しいソウルを表現しています。

また、曲と曲の間に”Interrude”として、メッセージ性の強い語りを入れていますが、ローリン・ヒルが名作”The Miseducation of Lauryn Hill”で取り入れた手法を意識しているのでしょう。間違いなくアルバムの統一感は高まり、メッセージ性も強く成りますし、それぞれのInterrudeも味わい深いのですが、何度も聞いていると、Interrudeをスキップしたヴァージョンが欲しくなります。ちなみに、本作の歌詞には、かなり汚い言葉や差別用語も使われています。魅力的なメロディと好対照です。ミュージック・ヴィデオには、汚い言葉を消したクリーン・ヴァージョンというのがあります。誰が制作したのか分かりませんが、くだらないことをするものだと思います。

2019年には、次のアルバム”When I Get Home”がリリースされ、高評価を得ています。”A Seat at the Table”の延長線上にありながら、より自分の世界へ埋没していっているように思いました。ライブの舞台が現代アート的であったり、あるいはNYのグッゲンハイム美術館でライブを行ったことなどからしても、よりアーティスティックな世界観を指向しているように思えます。いわゆる作家主義的指向なのでしょう。ただ、その世界は、まだまだ未完成です。モータウン、ジャズ、BLM、アート、これらが融合した先には何があるのか、あるいは何もないのか、次回作への興味が湧きます。(写真出典:amazon.co.jp)

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