NHKの「ETV特集 ”円空 仏像に封印された謎”」(2021/1) は、興味深い番組でした。円空の生い立ちは不明な部分が多いようです。どうも母子家庭に育ち、幼くして母を洪水で亡くし、寺に預けられたようです。複数の寺で過ごした後、修験道に入り、富士山で修行します。そこで造仏修行を始めたようです。母への想いは断ちがたく、それが円空の修行のモチベーションでした。40歳、生地とされる岐阜県羽島で大きな十一面観音像を彫り、中に母の遺品を納め、供養に一区切りをつけたようです。そして、修験道の聖地大峰山で冬ごもりの荒行を終えた円空は、突然、あの独特な作風で造仏を始めます。
仏教では、穢れている女性は成仏できないとされていました。母を弔ったものの、成仏できないことを気に病んでいた円空は、釈迦が、龍王の8歳になる娘龍女を即身成仏させたことを知ります。以降、円空は龍女を多く題材としていきます。ちなみに、龍女は、成仏したお礼に、人々の安らかな暮らしを願って法華経を説いたと言われます。円空は、母の成仏と人々の安寧を願って、多くの仏像を作り続けたのでしょう。1695年、64歳になった円空は、自らも、生まれ故郷で、飲食を断ち、即身成仏しています。
番組では、円空が滞在していた飛騨千光寺の麓の家々に、円空仏が多く受け継がれていることを伝えています。高さ10cmに満たない仏像は、親しみを持って「円空さん」と呼ばれてきたそうです。そして、病気の時には抱いて寝たもんだ、とまで言います。もはや宗教ではありません。信仰そのものです。円空仏は、人々の心の拠り所として、人々の暮らしに安らかさを与え続けてきたのでしょう。円空仏は、文字に依らない法華経そのものだったとも言えそうです。
釈迦の言葉は哲学です。菩薩たちは、その分析を重ね、人々への伝え方を考え、宗教としての仏教が成立してきたと考えます。しかし、空の概念は簡単なものではありません。修験道は、日本古来の山岳信仰、つまり自然崇拝と仏教が融合したものです。厳しい修行で得た験力を持って加持祈祷を行うばかりが修験道ではありません。験力を持って、人々に救済を与えることが本来的役割だと思います。円空仏は、宗教の枠組を使いながら、人々の信仰に形を与えています。まさに日本独自の信仰である修験道の一つの完成形だと思えます。(写真出典:enku.jp)