2021年1月22日金曜日

モンドール

昔、さる大学の医学部教授から「夜、チーズを食べるなんて、自殺行為だ」だと聞かされました。脂肪の塊だからというわけです。かつて、そういう説が多かったように思います。ところが、その後の研究で、肥満に深く関与しているのは脂肪分よりも炭水化物だということが分かってきました。同時に、乳製品の肥満を抑制する効果が注目されることになります。まだ十分に解明されていない部分も多いようですが、少なくとも、乳製品はタンパク質やミネラルを豊富に含み、代謝や免疫を正常に保つ効果が高いとされます。肥満の大きな理由のひとつが代謝異常であることがはっきりしてきたので、チーズが復権しつつあるのだそうです。

というような話を思い起こしながら、モンドールをたっぷり楽しみました。モンドールは、ジュラ山脈の高原で作られる季節限定のチーズです。生産地は、フランス、スイスにまたがりますが、付近にモンドール(金の山)と呼ばれる山があることから、こう呼ばれます。夏の間に、栄養たっぷりな高地の牧草を食べた牛のミルクだけを使って作られ、9~5月に限って販売されます。1kg生産するために、7リットルの乳業を使うと言う、実に濃いウォッシュ・タイプのチーズです。熟成が進むと、とても柔らかくなるので、エセピアの樹皮を巻き、円形の木箱に入れて販売されます。

秋から冬にかけて、欧州のチーズ店のウィンドウにはモンドールの木箱が積み上げられ、季節の風物詩にもなっています。大きな木箱を買って皆で食べるモンドール・パーティも季節の楽しみだと聞きます。濃厚で、ミルキーなモンドールは、チーズの楽しみがギュッと詰まっています。十分柔らかいのですが、表皮を取り、白ワインをかけて、木箱のままオーブンで熱します。そして、トロトロをバゲット等に乗せて食べるのが、モンドール定番の食べ方です。振りかけるワインは、同じジュラ地方の白ワインが相性がいいとされます。モンドールは、確実に、皆を幸せにしてくれます。

最も有名なウォッシュ・タイプと言えば、カマンベールです。しかし、ウォッシュ・タイプの女王はモンドールだと思います。もちろん、カマンベールも美味しいのですが、有名になった経緯は味ではありません。フランスの農産品は、A.O.C.(原産地呼称統制)でブランドが守られています。長い歴史を持つ制度ですが、20世紀になると厳格な法制化が進みます。認定第一号は、1925年、ブルーチーズの代名詞ロックフォールが取得しています。カマンベールは、かなり出遅れ、認定取得は1983年でした。その間に、カマンベールと名付けられたチーズが世界中で出回り、結果、広く知られることになりました。現在は、”カマンベール・ド・ノルマンディ”としてA.O.C.登録されています。

実は、モンドールの生産地であるジュラ山脈一帯は、フランシュ・コンテ地方にあります。フランスのハードタイプのなかで最大の生産量を誇るコンテの生産地でもあるわけです。チーズは、菌や酵母、あるいは技術や熟成環境等様々な要素で味の違いが生まれます。ただ、モンドールとコンテの美味しさを考えると、やはり元になるミルクの品質が大事なんだということがよく分かります。(写真出典:fr.peugeot-saveurs.com) 

マクア渓谷