今年一年間で、一番多く食べたランチは何だったのか、考えてみました。神保町の揚子江飯店の上海焼きそば、新橋のビーフン東の焼きビーフンとバーツアン、そして渋谷の澤乃井の釜揚げうどん、恐らくこの3つに絞られると思います。澤乃井は、宮崎名物の釜揚げうどんが食べられる貴重な店でしたが、コロナに勝てず、この12月14日をもって閉店となりました。他にも宮崎の釜揚げうどんの店はありますが、宮益坂という立地の良さもあり、よく行く映画館の近くでもあったので、実に重宝しました。
ビーフン東は、新橋駅前ビル2階にあります。皇族や池波正太郎にも愛された名店。もともと石川県で日本料理店を営み、台湾が日本に割譲されると、台湾へ進出、海軍御用達の料亭として繁盛します。マニラにも支店があったそうです。戦後、日本に引き揚げ、大阪は天満橋で「台湾料理 東」を開き、ほぼ同時に、新橋に「ビーフン東」を開店しました。大阪の店は、現在、昼のみ「ビーフン東」として営業しているようです。新橋店では、夜、台湾料理を出しますが、昼のメニューはビーフンとバーツアン(中華ちまき)のみです。ビーフンを知らない人はいないでしょう。ケンミン焼ビーフンも、よく知られています。ただ、さほど食べる機会はありません。ケンミンは、神戸に本社を置くビーフン専門会社です。味付きのケンミン焼ビーフンは、1960年に発売され、関西では、CM効果もあり、結構メジャーな食べ物のようです。ちなみにケンミンとは、どこの県民かと思っていましたが、台湾出身の創業者高村健民にちなむとのこと。恐らくケンミンは、ビーフンを関西人が好む味と食感に調整したのでしょう。それが、日本のビーフンのスタンダードになったと思われます。
ビーフン東のビーフンは、まったく異なる固めの触感と独特な風味を感じさせます。ビーフン東のビーフンを食べた人は、おしなべて「初めてビーフンの美味しさを知った」と言います。私もそうでした。使うビーフンは、台湾の有名な新竹米粉なのだろうと思っていました。ところが、厨房にケンミンと書かれた段ボールを見つけました。業務用かも知れませんが、いずれにしてもケンミン焼ビーフンとは全く異なります。ということは戻し方や炒め方でうまさを引き出しているということになります。食べるときには、にんにく醤油をかけて食べます。これが、台湾らしくあっさりした味で風味を増してくれます。バーツアンもそうですが、日本に媚びずに、台湾の味をしっかり守っているように思えます。
新橋駅の東側は、闇市時代から続く狸小路という飲み屋街でした。明治初期、鉄道建設のおり、子狸三匹が見つかり、作業員が小屋を建ててあげたことから名前がついたそうです。1966年に再開発され、新橋駅前ビルが建ちました。今もビルの正面玄関には狸が鎮座し、地下の飲食店街は、当時の風情を残します。ビーフン東と同様、昭和の歴史を背負っています。残念ながら、2022年に解体、再開発が決まっています。昭和が、また一つ消えるわけです。(写真出典:ehills.co.jp)