フィヨルドは、海に達する氷河が削りだした深い渓谷が、海進、つまり海水面の上昇によって入り江になったものです。幅がほぼ一定で、水深は深く、両側は断崖絶壁となることが特徴です。入り江なので、海面は静かで、切り立った山々を映し、まさに雄大な絶景を作り出します。世界第2位の規模を誇るのノルウェイのソグネ・フィヨルドの場合、水深1,000mで、断崖の高さも1,000m。それが200kmも続くと言います。水深が深いので、大型クルーズ船による観光のメッカでもあります。
2016年にノルウェイで制作された「The Wave」という映画を見ました。簡単に言えば、ありきたりなパニック映画です。ただ、フィヨルドの断崖が崩壊することで起きる津波がテーマであり、そのことが興味を惹きました。日本で津波と言えば、地震、特にプレート型地震によって起こされるものと思いがちです。ただ、考えてみれば、巨大なものが水面に落ちれば、巨大な波紋な起きることは当然であり、火山の噴火、斜面崩壊、氷河崩落はもとより、隕石落下や海底の崩落によっても津波は発生します。これは海に限ったことではなく湖でも起きるわけです。
フィヨルドの場合、幅が狭く水深の深い入り江に、山の一部が崩落するわけですから、波は巨大化します。ただ、被害は、一つの入り江に限定されるので、局地的となります。ノルウェイでは、たまに発生するようですが、人的被害が限定的なので世界的ニュースにはなりにくい面があります。とは言え、自然災害としては、その波高は記録的なものになります。1958年、アラスカ湾の北東部に位置するフィヨルド、リツヤ湾で地震が斜面崩壊を引き起こします。津波の高さは、なんと524mと記録され、観測史上最高とされます。湾に集落はなく、居合わせた船が転覆し、2名が犠牲となったそうです。ちなみに東京スカイツリーの第二展望台が450mですから、実に恐ろしい波です。
「The Wave」は、ノルウェイで大ヒットして、2019年には続編「The Quake」も公開されたようです。続編は、オスロを襲う地震がテーマとなっているようです。第一作が大ヒットした理由は、恐らく映画の出来以上に、あらためてノルウェイの人々に防災意識を喚起することになったからなのでしょう。「The Wave」の主人公は、地震観測所員でした。ノルウェイでは、フィヨルドを囲む山の状態を子細にモニターする体制ができているようです。美しい景観を見せるフィヨルドの潜在的リスクの大きさに驚きました。(写真出典:his.euro.co.uk)