2020年12月14日月曜日

ブルーなキーウェスト

"Rough and Rowdy Days"
今年、一番多く聴いたアルバムは、サンタナの最高傑作「Super Natural」(1999)です。理由は、よく分かりませんが、夏から秋にかけて、やたら聴いていました。コロナで活動が制約されるなか、サンタナのラテン・サウンドはいい気晴らしだったのかな、とも思います。今年、一番多く聞いた曲はと言えば、ボブ・デュランの「Key West」です。2020年リリースの「Rough and Rowdy Ways」 の一曲です。いわゆるトロピカルさは、かけらもありません。湿潤な空気感と濃い熱帯樹を思わせるブルーなアンニュイさが、とても心地よく、よく聴きました。これまた、別な意味でコロナのムードを反映しているのかも知れません。

ボブ・デュランは、好きなシンガーではありません。ただ、ソング・ライターとしては、大いに尊敬しています。デュランの特徴の一つは、カバーされた曲が大ヒットすることです。ジミ・ヘンドリックスは、歌にまったく自信がなかったらしいのですが、デュランの歌を聞き、自分にもできるかも、と思ったそうです。ユニークな歌い方とも言えますが、要は下手なんだと思います。デュランの歌い方は、シャンソンの方が合うようにも思います。セクシーさをきれいに洗い流したセルジュ・ゲンズブールというところでしょうか。

ボブ・デュランは、ミネソタ出身のユダヤ人です。20歳で、NYのフォーク・シーンに飛び込み、注目されます。63年には2枚目のアルバム「The Freewheelin' Bob Dyran」が絶大な支持を得、「風に吹かれて」は、ピーター・ポール&マリーがカバーして大ヒットします。ここで既にデュランは、フォークのカリスマとなり、歌詞の内容に加え、公民権運動への参加等から、反逆のカリスマとなります。ただ、本人は、それを良しとせず、60年代後半は、ロックへと傾き、フォーク・ファンから大ブーイングを受けています。音楽的な自由を確保しておきたかったのでしょう。

その後、一時期ですが、キリスト教福音派に改宗した時にも、大ブーイングを受け、変節男とも言われました。しかし、とりわけファンでもない者から言わせると、いつの時代も、デュランの音楽はさほど変わっていないように思えます。また、盗作男という批判もあります。インスパイアされたものを素直に取り込むことと、意図的な盗作は異なると思います。デュランは前者なのでしょう。盗作と言われるものも、デュランの本質が失われているわけではありません。愚直に自らの音楽を貫いている人のように思えます。

あらゆる賛辞と賞を獲得してきたデュランは、2016年、ノーベル文学賞を受賞します。デュランの歌詞の文学性の高さは皆が認めるものです。しかし、文学的であることと、文学賞受賞は異なると思います。デュランの作品は、音符と文字で構成されます。文学賞受賞は、文字だけで戦う文学者の皆さんに失礼な話だと思います。もちろん、デュランの問題ではなく、ノーベル文学賞を選考するスウェーデン・アカデミーの問題です。受賞決定後、しばらくの間、デュランは沈黙します。本人は、あまりのことに言葉が出なかった、と語っていますが、上述のような観点、あるいはダイナマイトが生み出した賞といった面も含め、それなりに葛藤があったのではないかと想像します。(写真出典:hmv.co,jp)

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