ロバート・ゼメキス監督 ロアルド・ダール原作 2020年アメリカ
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ロアルド・ダール原作、ロバート・ゼメキス監督、アン・ハサウェイ主演、原題が”The Witches”とくれば、ハリウッド伝統の上質でほんわかとしたコメディだと思い込みました。勝手にイメージしたのは、ジョン・アップダイク原作、”マッド・マックス”のジョージ・ミラーが監督した「イーストウィックの魔女たち」。ジャック・ニコルソン、スーザン・サランドン、ミシェル・ファイファー主演の上質なコメディ映画でした。事前によく調べることもなく、そのイメージを持って勇んで見に行きました。ところが、見事にやられました。上出来ではありますが、子供向けだったのです。原作者で、ピンとくるべきでした。私にとってロアルド・ダールは「あなたに似た人」など奇妙な味の短編を書く作家ですが、一般的には、グレムリンやチョコレート工場で有名な児童文学者だったわけです。実は、予告編も見ましたが、まったく子供向けとは思えないものでした。ポスターも、とても子供向けとは思えない構図。ただ、はじっこに小さく写っているネズミ達に気づくべきでした。コロナ禍のなか、子供たちの需要は期待できないので、配給会社は、実に微妙なところへボールを放ったのではないか、と思います。1/3ほど埋まった客席に、子供はまったくいませんでした。やられた感があるので、子供向けと言っていますが、正確には家族向けと言うべきなのでしょう。
米国では、もともと10月末にリリース予定だったものの、コロナで状況が見通せず、HBOでの配信に切り替えたとのこと。日本では劇場公開となりました。シンプルなストーリー、テンポの良い展開、出来の良いCG、さすがゼメキス監督、そつのない仕上がりです。アン・ハサウェイは、よくこの役を引き受けたなとも思いますが、結構楽しんで演技している感じです。設定を60年代のアラバマとしている関係か、フォー・トップスの「Reach Out I'll Be There」やオーティス・レディングの「The Dock of the Bay」が流れていました。ちなみに、魔女たちの手が三本指である点が、障害を持つ人美とへの配慮が足りないと批判され、製作のワーナーが陳謝したようです。
ロバート・ゼメキス監督は、バック・トゥ・ザ・フューチャーで名をあげ、フォレスト・ガンプでアカデミー賞も獲得しました。特徴的にはCGの巧みな使い手であることです。「永遠に美しく」といったコメディも手堅く、CGを使っていない「マリアンヌ」等のシリアスな映画もそつなくこなします。製作会社からすれば、貴重な職人的監督なのだと思います。ジョージ・ルーカス以降、映画界の名門となった南カリフォルニア大学出身。若いころ、スピルバーグの不評映画「1941」の脚本も担当しています。33歳で、バック・トゥ・ザ・フューチャーをヒットさせていますので、映画界のエリートと言ってもいいのでしょう。
魔女という概念は、おそらくシャーマニズムに起源を持つものなのでしょうが、15~17世紀の魔女狩りの時代、悪魔の手下というキリスト教的存在になります。天災等による社会不安を背景にマス・ヒステリアが爆発したものなのでしょうが、実に多くの人々が処刑されたわけです。多くは、地域社会のなかで変わり者とされた人々だと想像できます。思想や宗教というよりも、性格的なものや外見、あるいは精神疾患等によって異端視されたのでしょう。例えば日本の鬼は山奥や孤島に住みますが、魔女は人々の生活のなかに潜んでいるところが特徴的です。より宗教的な印象、つまり人の二面性を象徴しているように思えます。(写真出典:eiga.com)