2020年11月5日木曜日

黄金比

友人が、アメリカ南部の大学院へ留学した際の話です。寮で同室になったのが、アフリカ西部の族長の息子。ある春の日、陽気に誘われ、二人で公園へ散歩に出かけたところ、ビキニ姿で日光浴する若い女性たちがいたそうです。私の友人が「すげぇ、いい眺めだなぁ!」と言うと、同室の彼は「気持ち悪い」と応えたというのです。なんで、と聞くと「肌が白くて、髪が金色で気色悪い。一番気持ち悪いのは腰がくびれていることだ」と言ったそうです。美感、価値観は、国や個人で見事に異なるわけです。

随分と昔の話ですが、ニューズウィーク誌に面白い記事がありました。「なぜ私たちは美しい人に惹かれるのか」といったタイトルだったと記憶します。人類が登場してから数百万年の間、男性は狩りを行い、どれだけ多くの獲物を持って帰れるか、ということがその価値だったわけです。一方、女性は、強い子をどれだけ沢山生み育てられるかが価値でした。ところが、いずれも見た目だけで、その能力を判断することは不可能で、やってみなければ分かりません。そこで、パートナー選びの際には、体のバランスの良さが一つの尺度になっていたのではないかというのです。

つまり、人間の体は、機能的に作られているので、バランスが良いということは、機能が効率よく発揮され、良い成果も期待できるわけです。顔の造作も同じことが言えます。やはり、目鼻立ちのバランスが良い方が、機能的に優れていると判断されるわけです。現代に生きる私たちも、その延長線上で、体のバランスの良い人をスタイルがいいと評価し、目鼻立ちのバランスの良い人を美しいと評価するわけです。記事では、いわゆる黄金比や他の貴金属比をベースに、整った顔と判断できる目鼻立ちの構成比率を算出し、実際の美しい顔に当てはめ、検証していました。

黄金比は、線を一点で分け、長い部分と短い部分との比が、全体と長い部分との比に等しくなるようにしたときの比率です。正しくは算式で示されますが、おおむね1:1.618であり、これを縦横とした長方形が黄金長方形と呼ばれ、最も美しい長方形とされます。古代ギリシャで発見され、建造物ではパルテノン宮殿、彫刻ではミロのヴィーナス、絵画ではモナ・リサ等で多く活用されてきました。また、身近には名詞、ハガキ、あるいはアップル社のロゴ等といったデザインの基本となり、メークや美容整形でも活用されています。

実は、その記事で最も気に入ったのは最後の言葉でした。さんざん構成比で整った顔を分析したうえで「それでも、なぜ私たちはアンバランスな顔に惹かれるのだろうか」と結んでいました。そしてマリリン・モンローの写真が添えられていました。(写真出典:eiga.com)

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